真夜中に友だちがやってきて、あそびに行こうと誘われた。一緒に家を抜け出し、森を抜けると、丘の向こうに「ゆうれいのまち」がひろがっていた。そっとのぞくと、ゆうれいたちが追ってくる。たすけて、ぼくを置いていかないで! ホラー小説界と絵本界の新鋭コンビが「ゆうれいのまち」へ誘い込む。
A4変型判 32頁
978-4-265-07954-4
定価1,650円(本体1,500円+税)
2012/02/29
当代の人気作家5人が子供向けの「怖い」絵本に挑戦する画期的な企画「怪談えほん」シリーズ。第4弾となる恒川光太郎(作)/大畑いくの(絵)の『ゆうれいのまち』がいよいよ発売されました。恒川さんが怪談えほんに参加したのはなぜなのか。怪談えほんの監修者である文芸評論家、アンソロジストの東雅夫さんがお話をうかがいました。
(インタビュー=東 雅夫、構成・文=タカザワケンジ、協力=オンライン書店ビーケーワン)
インタビューを始める前に、岩崎書店さんから恒川さんにお見せしたいものがあるそうです。
岩崎
書店
『ゆうれいのまち』」表紙の絵だけ上がってきたので、カラーコピーをお持ちしたんです。
恒川
おお、これは! すごい。かっこいい!
岩崎
書店
メルヘンなんですけどおどろおどろしいところもある絵に仕上がったのではないかと思います。
恒川
嬉しいです。やったあ!
岩崎
書店
中身の絵のほうも、いま、画家の大畑いくのさんが張り切って描いてくださっているそうです。
恒川
楽しみですねえ。
恒川
東さん、いいお仕事をありがとうございました。
いやあ、こちらこそ御快諾いただいてありがとうございました。今回、怪談えほんに企画監修という立場で関わって、恒川さん、宮部みゆきさん、皆川博子さん、京極夏彦さん、加門七海さんという5人の方にお願いしようと思い立ったわけですが、なかでも恒川さんには、以前から民話における語り部の想像力に近いものを感じていたので、まさにこの企画にぴったりだと思っていました。恒川さんなら、子どもを本気で怖がらせたり、驚かせる物語を書いていただけるんじゃないか、と。恒川さんご自身は怪談えほんの打診を受けていかがでしたか?
恒川
本当に嬉しかったですね。とくに最近、子どもができたので、絵本の仕事ができたら子どもに自慢できるな、と真っ先に思いました。「お父さんの本だよ」と子どもに読んであげられたらいいな、と。漠然と夢見ていたことを実現できる依頼を受けて夢のようでした。
「お父さんの本だけど、怖いよ」ということになりそうですけど(笑)。
恒川
そうですね(笑)。怖くて泣いちゃうかもしれないけど、子どもに見せるのが楽しみです。いま、11カ月なのでまだ先ですけど、早く絵本を読めるようにならないかなって思いますね。
絵本という形式については、いかがでしたか?
恒川
まったく初めてなので楽しみでしたね。絵がつくので、ほかの作品の執筆をさまたげない文章量ということでもよかったです。
文字だけの分量にすると800字とか1000字くらいですが、その分量はどうでしたか。
恒川
短いからすぐに書けるかというとそうでもなくて、短ければ短いなりに難しかったですね。しかも、子ども向けということで、まず文体からどうしようかと考えました。小説だと、人を選ぶ文体で書いたとしても、それはその作家の味ということで理解してもらえる部分はあると思うんですけど、絵本はそうはいかないですよね。低学年向けを対象にしてくださいと言われたので、それくらいの子たちがまったく理解できないものは書けないなと思いました。しかも、子どもが怖がるような怖い話を、と言われたので、主な対象の小学校低学年くらいの子たちにわかりやすく、怖く……どんな話にしようか悩みました。
この話にしようと決めるまでに時間はかかったんですか?
恒川
絵本、児童文学、宮沢賢治的なもの、夜っぽいもの、ホラー、ダークファンタジー、自分の作風に合っていて……。そのへんから考え始めたんですが、最初は災害が起こる話を考えていたんです、実は。ところが、その後に東日本大震災が起きてしまって、いくらなんでもドンピシャすぎると考え直しました。災害の話を書いてはいけないということはないですけど、あまりにもタイミングがぴったりだったので、大震災からインスピレーションを受けて書いたと思われても困るなと思ったからです。そこでもう一度シャッフルして、できあがったのが、この話です。
真夜中に子ども二人だけで遊びに行くと……というお話ですね。
恒川
絵本には二人出てきますけど、イメージとしては「ひとりぼっち」。夜の海みたいな世界がずっと広がっていて、そこに自分がぽつんと一人浮かんでいる、みたいなものですね。それをそのままお話にしたわけではないんですけど。
このお話には「自分はどこから来たのか?」という根源的な怖さがありますね。子どもの頃、親から「おまえは川の下で拾われてきたんだよ」なんて言われたりしたじゃないですか(笑)、大人は軽い冗談のつもりでも、子どもはもしかすると本当かもしれない、と思って恐れる。子どもなりに存在の不確かさを感じているというのか。
恒川
真夜中に、ここが本当に自分の家なのだろうか、と感じる怖さですね。このお話の主人公は自分の住所がわからない世界に住んでいるんです。
先ほど、宮沢賢治とおっしゃいましたが、むしろ小川未明の作品に通じるものを感じました。未明の場合も、夜の海とか暗い森、吹雪の彼方に彷徨い込んでいく。未明童話の核にあるのは、世界に対する恐怖やおののきだと思うんですが、『ゆうれいのまち』を読んで、恒川さんの資質と未明がやっていたことがまさにオーバーラップして、とても興奮しました。
1973年、東京都生まれ。2005年、『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。著書に『雷の季節の終わりに』『秋の牢獄』『南の子供が夜いくところ』『竜が最後に帰る場所』などがある。現在、沖縄在住。
1973年、神奈川県生まれ。アメリカワイオミング州のウェスタンワイオミングコミュニティカレッジで油絵を学ぶ。2005年、東京・中野での初個展以来、数々の個展、グループ展、ライブペインティング、挿絵の仕事で活躍中。絵本作品に、『貝になる木』、『ハナノマチ』、『そらのおっぱい』(スズキコージ・作)、『土神ときつね』(宮沢賢治・作)などがある。
1958年、神奈川県生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。1982年『幻想文学』を創刊し、2003年まで編集長を務める。現在は怪談専門誌『幽』編集長。2011年著書『遠野物語と怪談の時代』で、第64回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞。編纂書に『文豪怪談傑作選』『てのひら怪談』『稲生モノノケ大全』ほか多数がある。