第36回選考経過、選評

「福島正実記念SF童話賞」は、36回目を迎えた。隔年開催になってから3度目の今回、応募総数は219編。毎年開催していたころと極端な増減がなく、ホッとしている。平均年齢は、53歳。前回から1歳上がっている。最高齢は90歳。最年少は9歳。実に幅広い年代からご応募いただいているが、最終選考に残った方々を見ても、高年齢の応募者が多いのは否めない。このコロナ禍で、授業のオンライン化など、学校現場も変化して、それに伴い、子ども社会での「常識」も変わってきている。反面、いつまでも変わらない子ども独特の感性もある。それらを見極め、創作の中にあますところなく活かしてほしい。

今回の応募作品の全体的な印象は、文章力が比較的高いものが多かったということだ。ただし、パターン化された内容、似たような傾向にあるものが見受けられた。アイデアが新鮮で勢いがあり、オリジナリティあふれる作品にぜひチャレンジしてほしい。

さて、第一次選考は例年どおり、すべての作品を対象に行われ、次の16作品が通過した。

『テルティ参上』 好美 松
『未来の種』 山世孝幸
『夏休み製造所』 ヒロタミホ
『1分先は未知』 かく遥加
『ウサギ体験中!』 たなひろ乃
『宇宙の種の育て方』 川瀬えいみ
『水色のあなから来たうさぎ』 紡透子
『サテライト・アノン』 山畑まはな
『ボクとジローの夏』 市川恵美子
『カエルのアーチ』 野川美保
『キオクの塔 ~青い髪のひみつ~』 飛蛍アキラ
『緑のタイヤのむこうがわ』 のむらきょうこ
『まかせて! スーパーこうたろう』 宇岐知子
『たかかげ』 雪沢しょうご
『宇宙人ごっこ』 こいけまさき
『エバとレコルと魔法の本』 真話みいわ

この16作品を対象に第二次選考を行った。よく似た話が多かったが、中には極めて個性的なテーマのものもあり、評価は低くても光っているものがあった。また、非常にうまく書けているのに、主人公が6年生で、AIが出てくる作品があった。福島賞のグレード(読者の対象学年)は小学校3・4年の中学年であり、AIは前回の大賞受賞作品。本気で最終選考に残り、大賞を狙う気持ちがあるのなら、過去の受賞作品を読み、傾向と対策をよくよく練ってほしい。

『未来の種』 山世孝幸 主人公が女子を怒らせることを言い、クラス中から総スカンを食らう。そのままひとりぼっちの夏休みになるかと思いきや、玄関の前で「未来の種」を拾い、それは隣に引っ越してきた未来という女の子のものだという…。
起承転結、キャラも立っており、楽しく読めて好感度は高い。会話もテンポがよく、文章力もある。しかし、あまりにも「男子」「女子」が多い。ジェンダーの取り上げ方で意見が分かれた。

『ウサギ体験中!』 たなひろ乃 いきもの係の主人公は、いやいやその仕事をしている。ある日、ウサギのピョン太が行方不明になったと思ったら、人間の男子になっていた。やがて主人公もウサギになり…。
文章力があり、気持ちよく読める。ただしストーリーはやや退屈で、いい話で終わる。SFとしては新鮮な設定だったので、もう少し料理できればおもしろいものになっていた。冒頭の「つかみ」は上手だったが、最後の「将来の夢」はややいかにも感があった。

『サテライト・アノン』 山畑まはな不思議な雰囲気の転校生がやってきてたちまち人気者になるが、町がだんだんと変化していく。彼はアノンという星からやってきた宇宙人だった…。
「地球は大切」という内容の話が今回応募作に多く見受けられた。文章力がもっとあれば…と惜しい。細かいところで詰めが足りない。SF感は満点なのに、その設定を活かしきれていない。それが説得力のなさにつながっており、残念。

『カエルのアーチ』 野川美保 学校のプールサイドでいじめっ子がオタマジャクシを踏みつぶそうとするのを主人公が助ける。その日を境にいじめられるようになるが、ある日、転校生がやってくる。自分だけが黄色いカエルに見えるのだった…。
児童書らしい雰囲気、高い文章力で、最後まで気持ちよく読ませる。子ども目線も自然でいい。しかしながら、ややパターン化された内容で、すぐにカエルの恩返しという内容がわかり、ラストも予想できる。この作者で別の作品を読みたかったと思わせる。

『まかせて! スーパーこうたろう』 宇岐知子 子役志望のこうたろうが劇団の二次試験の日に神様に出会う。そこに入院中の友だちがやってきて、シニガミにさらわれないように助けてほしいという…。
残念ながら、話の展開、中身も退屈という意見が多かった。「ひねり」がなく、出てくるアイテムもあまりにもオーソドックスなものばかり。今の子どもがわくわくしながら読める新鮮さがほしかった。

『宇宙人ごっこ』 こいけまさき 隣のクラスの宇宙人めいた男の子。学校では全くしゃべらないその子に興味を持ち、いじめられているのを助けたのをきっかけに友だちになる主人公。彼に招かれ、ゴミ置き場内にある「秘密基地」へ遊びに行き、ボスと呼ばれる宇宙人と交信をして不思議な交流をする…。
果敢に現代の世相を取り入れているが、「場面緘黙」「虐待」などワードがストレートで、大人目線が目立ち、子どもの活躍が少ないところが残念だった。SFとしては伏線が複雑だった。もっと整理されていれば、斬新なSFになった可能性もある。

以上、最終選考会で各作品についての討議を重ねた。

最終的に、残念なことだが、今回、大賞を出すことはできなかった。前回の『AIロボット、ひと月貸します!』の完成度はすばらしく、刊行後に複数の推薦図書に選ばれ、海外にも版権が売れた。二作目も一年後に出している。大賞受賞作品は、岩崎書店の本になる。刊行するだけでなく、その後も見据えて将来性の高い書き手、作品を求めたい。
 なお、『未来の種』、『ウサギ体験中!』、『カエルのアーチ』を佳作とすることとした。ぜひ研鑽に励み、「次」を目指してほしい。

2022年3月
福島正実記念SF童話賞選考委員会



選考委員の選評

選評 石崎洋司

今回の選考で気づいたことの一つに、いままで以上に作品の善し悪しがはっきりと二分化されていたことがある。つまり、子どもを読者とする作品であることが意識された作品と、自分の書きたいことでせいいっぱいで、読み手にこれで伝わるか、おもしろいと思ってもらえるかに意識がむいていない(あるいは、その余裕がない)作品とに、みごとに分かれていたということだ。その点で、一次選考および二次選考は、ある意味、楽だった。

とはいえ、最終選考は難航したといわざるを得ない。

わたしは大賞に『未来の種』を推した。SFのジャンルでいえば、いわゆるタイムトラベルもので、小道具として「種」を使ったところに新味があるが、わたしが特に気に入ったのはキャラクターだ。気をてらったところもなく、子どもの日常にいかにもいそうな自然なキャラクターでありながら、フィクションの登場人物としての「強さ」をちゃんと持っているところに、〈子どもが読む話〉を書ける資質のある作者だと感じた。

大賞にいたらなかったのは、この作品にジェンダーバイアスがかかっているのではないかという指摘があったことだ。正直なところ、わたしはまったく問題だとは感じなかった。主人公の男子は、女の子にむかって「女子なのに」といってしまったことを後悔したり、男子から「男のくせに」といわれたことに強い違和感を感じてもいる。バイアスどころか、むしろジェンダーに関して教育的でさえある、と、SDGsの本を執筆したこともあるわたしには思えるのだが、そうではないという強い声もあり、残念な結果となった。

『ウサギ体験中!』と『カエルのアーチ』は、キャラクターや会話、設定が実に楽しい作品だった。大人の小説では「悪」とされる「予定調和」も、子どもの本では「善」となることがある。この二作品はその好例だ。新人賞というコンペティションを勝ち抜く「強さ」はなかったが、このお二方にも子どもむけのお話を書く資質が垣間見えた。ぜひ、書きつづけていただきたいものである。



選評 後藤みわこ

「もう一度読みたいと思える物語をください」

今回は一次選考の段階で選評を書きかけていました。それが上の一文です。

複数回読むに耐える作品……いえ、何度読んでも楽しい作品がほしいのです。初読で理解に苦労するのはもってのほか。一度目に「いいな」と思っても、二度目に読んだときにほころびが見えてしまってはダメなのです。

わたしは子ども時代、好きな本を何度も読みました。20回以上読んだ本もあります。応募者のみなさんはどうですか? 応募した作品は、誰かの愛読書になりそうですか?

今回は一次選考の段階で「二次に残せそうな候補」が多く、くりかえし読んで迷いました。残せる作品数が決まっているからです。
(すんなりと「二次にあげよう」と思えた作品は、やはり最終選考まで残りました)

二次選考もくりかえし読んで評価に迷い、最終選考会も同様で、最後まで「これが大賞だ!」と決心できませんでした。

佳作の三作は、ともに筆力充分です。作品世界の雰囲気を伝える文章で、キャラクターの配置のバランスが良く、内面の表現もていねいです。一読者として感動しました。

次の作品も、いいものになるんじゃないでしょうか。また福島賞に挑戦してほしい、と心から願っています。

特に意見が分かれた『未来の種』に関しては、わたし自身が「男子のくせに」「女の子だから」的な視点・発言を排そうと努めているせいもあるのでしょうが、それがくりかえし登場することに違和感が拭えませんでした。

現実に令和の子どもたちがそういっているのだとしても、主人公の母(昭和生まれ?)が口にするのは仕方ないとしても、未来を知っている登場人物が「未来の世界ではどうなのか」を示唆してくれてもよかったのではないかしら、と思うのです。それでわたしの違和感が消え、「男だ」「女だ」発言も活きることになったかもしれません。



選評 廣田衣世

昨年、アメリカ政府が、UFOの存在を公に認める、という衝撃的な発表をしました。SFファンにとっては、ついにこの日が来たかと大興奮した事件です。もっとも、UFO(未確認飛行物体)としてではなく、UAP(未確認航空現象)として認めた、という体ではありますが、今まで散々空想だ、見間違いだと否定されてきたものが、正式な議題として現実の俎上に上がってきた事に、ドキドキわくわくが止まりません。それが影響しているのかどうか、一次選考から読ませていただいて、今回は宇宙物・宇宙人物の作品が多かったように感じました。

『未来の種』は、主人公の年代の男子と女子の力関係をとてもリアルに表現していて、今風なセリフ回しも軽快で楽しく、難なく一気に読める作品です。文章自体がとても上手で、子どもにも分かりやすいストーリー運びが好印象でした。アサガオをアーチ形の支柱にはわせ、それが後にタイムトラベルのトンネルになるというアイディアも秀逸です。ラストのまとめ方も、ファンタジックな歌の歌詞のようで素敵でした。ただ、物語の発端となる、主人公と女子達との口論を、ジェンダー問題ではなく、もっと違ったアプローチで展開させていたら良かったかなと、その点は非常に残念でした。「男とは・女とは」に、少し固執し過ぎていたのかもしれません。

『カエルのアーチ』は、作品全体がとても優しく温かい雰囲気にあふれ、最後まで子どもの視点で丁寧に描かれています。プールで助けたオタマジャクシが、等身大のカエルの転校生となって主人公を助けに来る、という王道の恩返しストーリーではありますが、自己肯定の大切さが込められた、メッセージ性の強い作品でした。おとなしい主人公が、強い子(いじめっ子)との付き合い方を自分なりに考え、自分を庇ってくれる転校生を逆にウザいと感じる心理描写など、共感できる読者も多いのではないかと思いました。

『ウサギ体験中!』は、ウサギと人間の入れ替わり体験をユニークに描いた作品で、ウサギの目線、人間の目線をそれぞれしっかりとらえています。飼育係をイヤイヤやっていた主人公もウサギになってしまうなど愉快ですが、ややありきたりな、パターン化した展開だったように感じました。

『サテライト・アノン』は、中学年向けとしては少々難しい印象でした。読者対象を意識し、尚且つ置き去りにしないという事が、重要なポイントだと思います。

『宇宙人ごっこ』もまた、後半になるにつれて、内容も文章も大人目線になってしまい、SF感も薄れていってしまいました。

『まかせて!スーパーこうたろう』は、いかんせん昭和テイストが強く、全体的に古すぎたのが難点でした。



選評 南山 宏

本賞は選者各人が応募作品の第一次選考の責任を分担する取り決めになっているので、大賞や佳作になる作品がはたして自分の担当した分から出るかどうかと、自分の選択眼と評価力に対して毎回それなりに重い責任感と秘かにスリリングな興奮を覚える。さらに選考が二次、三次、最終決定と進むにつれ、これはと思える作品に出会えた時には、ほかの選者の方々の反応も私と同じだろうか、それとも違うだろうかと、今度はそれが気になってくる。

今回は結果として私の担当した一次選考分の応募作品は、最終選考対象作品6編のうちの2編にまでは残ったものの、結局のところどちらも受賞レベルにまで達した作品ではないと判定された。

とはいえ、今回最終選考まで残ったほかの四編の中からも、残念ながら大賞受賞作を決めることは叶わなかった。けっきょくそれに準じる佳作の評価を3編の作品に与える結果に終わったのは、選者の一翼を担わせていただいた私としては、正直言っていささか以上に残念な思いに駆られざるを得なかった。

しかしながら、たんに偶然にすぎないとはいえ佳作3編のタイトルがそれぞれ暗示するように、すべて動物ないし植物が物語の重要なモチーフになっていることは指摘しておいていいだろう。

佳作『未来の種』は、植物の花(アサガオ)のアーチがタイムマシン(タイムトンネル?)になるという、おそらく世界に前例のない奇抜な着想で驚かせる。〝ぼく〟を振り回してアサガオ作りを手伝わせる年上の女の子は、じつは太陽の異常な未来からやってきた不思議な少女だった――地の文も登場人物の会話のやりとりも、現代っ子らしくテンポのいいノリとツッコミ的な面白さがあり、最後までスイスイ読ませてしまう作者の力量に感心した。

私自身は大賞受賞に推してもいいと思ったが、作中の数か所にややジェンダー差別的な表現があるため、そこが出版などの形で公表した場合に配慮を欠くことになるのではとの指摘があり、けっきょく最終的には佳作止まりとなった。

佳作『ウサギ体験中!』は、なぜか何億年かに一度の割りで〝人間に変身できるチャンス〟に恵まれたウサギと、その逆に突然どういうわけかウサギに変身させられて、恐ろしいイヌやネコに怯えるはめになった生きもの係担当の小学3年生の冒険と成長の物語。

佳作『カエルのアーチ』は、生物図鑑にも載っていない新種(?)の黄色いオタマジャクシを悪ガキから助けた〝ぼく〟の前に後日現われた転校生の正体が、自分以外の人にはハンサムな少年にしか見えない巨大な黄色いカエルで、水泳の練習を助けたり、いじめっ子から救ってくれる心温まる動物の恩返し譚になっている。

これは福島賞の選者の一人として長年関わってきた率直な感想だが、以上の佳作3編に限らず、発想や着想の良し悪しや、物語の展開に巧拙こそあれ、文章力の点ではアマチュアのレベルをすでに超えた作者が多かったように思う。応募者各位が歴代の福島賞受賞作に目を通すなど日頃文学的研鑽を積んでいる結果だとすれば、同賞の選者の一人としてこれに勝る喜びはない。



選評 島岡理恵子(岩崎書店)

今回最終選考会に残った作品には共通するものが多かった。

転校生、宇宙からきた、あるいは未来から。今の地球をなんとかしないと大変なことになる。コロナによる生活の変化。そこから生まれた危機感からどうなるか。

今の時代に合わせて考える物語は大切だが、中身は結局以前に読んだことがあるような感じだと、やはり既視感は否めない。

平均年齢が高くなっているためなのか教育的指導、大人目線も気になった。

限られた枚数の中で、いかにドラマチックな物語を作り出すか。この辺りがポイントになってくると思う。こうきたかと思えるような意外性、発想の斬新さなどが今回は残念ながら少なかった。

一定以上の文章力、語彙力はもちろん大事だし、そういったレベルは上がってきているが、その上にプラスアルファが出てくると、きっと新しい世界が見えてくるのではないだろうか。前回のような全員一致までには至らなかったので、残念ながら大賞は出なかったが、惜しくも佳作になった3名の方には、ぜひ次回もリベンジしてもらいたい。

『ウサギ体験中』は前段が長くて、主人公がウサギになったところは短めだった。ウサギになったからこそ味わえたこと、彼自身の体験がもう少し膨らむと面白かったかもしれない。

『カエルのアーチ』はカエルの恩返しで、主人公だけに見えるカエルの転校生。ある意味児童文学の王道的な要素をもっている。子どもらしい発想も評価したいと思うが、無難すぎたという感じで大賞までには至らなかった。別の物語ならどんなものが描けるのか見てみたいという声もあった。

『未来の種』は男だから、女だからという意識がかなり強く出ていたのと大人びた印象が強かった。未来からきた少女は自分の子孫ということで、自分は将来結婚できるんだと安心するのは、小学生男子にしては少しませている気もした。ジェンダー部分について意見が分かれたので、最終的には佳作となった。


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