第16回選考経過、選考委員の選評

「ジュニア冒険小説大賞」は今年で第16回を迎えた。隔年開催になって初めての回だったので、応募総数の極端な増減が心配されたが、蓋を開けてみると、106編。歴代3位の総数でホッと安心した。

全体的な傾向としては、相変わらず中高年から高齢者の応募が目立つが、10代からのものもあり、裾野が広がってきた印象がある。さまざまな世代から、読んだことないような作品が届くことを願ってやまない。

内容としては、異世界ものが少なく、日常的な風景が多かったという報告があった。前回の「ナンシー探偵事務所―」の影響もあるのかもしれないが、これまで異世界ものや和風ファンタジーの応募が多かっただけに興味深い。

また今回は、賞の冠にある「冒険」とは何かを改めて考えさせられた。応募要項には「冒険心に満ち溢れる作品を」と謳っているが、必ずしもそうでない応募作の場合、この賞で評価できるのかと悩まされた。

やはり対象学年、規定の枚数などに加えて、冒険的な要素はどこかに入ってほしい。その定義も実際広範だが、日常生活の延長に過ぎない物語や主体性のない主人公では「違う」と思わざるを得ない。

最終選考会では、過去にジュニア冒険小説大賞を受賞して、今、活躍中の作家たちのことも話題になった。落選しても他の賞をきっかけにデビューした、という話を聞くのもとてもうれしい。輝く先輩たちに続く受賞者を迎えたい。

さて、第一次選考は例年通り全ての作品を対象に行われた。そして、次の15作品が通過した。

「パンと道連れの者」 笹嶋友晴
「いつか、きっと。あの日の約束―」 秋あきら
「アン・ドゥ・ストーン」 成美ニロ
「トンガリ様の宝物」 乙原あん
「小鉄とヴェルホルト」 たかいちめい
「チェックメイトは快調なり」 松下好美
「妖怪お悩み相談室」 清水温子
「ファミチル」 周防まひろ
「星の王とさまよえる湖」 紺野理香
「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」 真夜 寛
「ウラトイレの探しもの」みずの瑞紀
「こんな子と友だちになりたい」 みとみ とみ
「修学旅行は飛鳥時代」 飯田 浩
「ヒーローとぼく」 羽鳥ユキコ
「未来石」 木村 文

この15作品を対象に第二次選考を行った。結果、次の6作品が残り、最終選考会で討議された。

「いつか、きっと。あの日の約束―」 秋あきら
「アン・ドゥ・ストーン」 成美ニロ
「妖怪お悩み相談室」 清水温子
「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」 真夜 寛
「ウラトイレの探しもの」みずの瑞紀
「未来石」 木村 文

「いつか、きっと。あの日の約束―」文章は読みやすく、読後感もいい。関西弁も味わいを出している。おばあちゃんと過ごす夏休みもリアルでうまい。しかしタイトルが漠然としているし、つくも神の設定がやや平凡。またいちばんのネックは、いつも猫の福丸がお膳立てをして物語を進め、主人公の主体性が全くなかったことだった。応募要項の謳う「冒険心に満ち溢れる」瞬間がないのは、やはり評価できない。筆力はあるので、次はもっと的をしぼって応募してほしい。

「アン・ドゥ・ストーン」文章は読みやすく、構成もうまく、達者な部類に入ると思うが、いかんせん楽しめない。後にその理由がわかるとはいえ、大人(叔父)が小学生(甥)をいじめる場面など、眉をひそめながら読んだ。また、大人の犯罪が本文中に出てくるのはいかがなものか。そして、この作品にも「冒険」がない。最後のツメが甘いのも残念。一般文芸の場合は「イヤミス」など、読後感の悪さをあえて求める作品もあるが、児童書は違う。やはり、子どもがわくわくしながら読めるもの、何度も読み返したくなるものを書いていただきたい。

「妖怪お悩み相談室」いろいろな妖怪がわらわらと出てくるのがおもしろい。文中に「なるほど」と思わせる名言が多いのもポイント。「冒険」をどこに求めるのか、これもなかなか難しいが、主人公が自ら妖怪の世界に入っていくこと、ピンチでも逃げないところが冒険といえば冒険だろう。妖怪それぞれに悩みや事情があり、憎めないキャラクターであることに好感が持てる。舞台が学校と相談室に集約しているのも、子どもにとっては身近だろう。主人公が活躍、成長していくのも児童文学の王道で安定感がある。

「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」独特の世界観。書き出しから文体がいい、改行もいい、「つかみ」がうまいという選考委員がいる一方、初めてこの世界のことを知る読者に伝えきれているか疑問という意見もあった。地の文がテンポよく進むのに対して、設定を説明してしまう不自然なセリフが多いのは残念。気象ネタは新鮮だが、ジブリのイメージがぬぐえない。好きだからなのか、気づかず影響を受けているのか……。今年の夏のように異常気象が続いていくと将来こういうことが起きるかも……と思わせる未来SFとしてはいいだろう。冒険心は大いに買いたいが、あともうひとつ。

「ウラトイレの探しもの」「うんこドリル」が流行っている昨今、そういった路線を狙っているのだろうか。さりげなく随所でふざけているが、対象年齢である高学年以上でこういうものが好まれるのか、ちょっと気になる。表と裏、光と闇という設定も一生懸命理解しようとしないとわからない。いじめなどのシビアな話もあり、全体的にマッチしていない。せっかくのトイレの知識もうまく昇華されていない印象を受ける。また、今は学校の出入りに厳しく、夜の校舎に入ることはできない。そういった現実的なことにも配慮しつつ、設定を作ってほしい。

「未来石」タイトルの石の紛失を巡って、「親友」女子3人の友情の危機が冒頭から描かれているが、現実の女子の人間関係はこんなに恐いのか。章ごとに「脇役」を主人公にするパートが挟まれる構成は読者を戸惑わせ、必ずしも成功しているとはいえなかった。肝心の未来石の正体に少しがっかりする人もいるのでは。しかし、前回の最終候補作品とはまるで違うテイストの作品を書いてきたことは高評価だ。筆力もあり、強く引き込まれたのは確かである。まだ若い作者の今後が楽しみだ。次回は明確に「冒険」を意識して書いてほしい。

以上、最終選考会で各作品についての討議を重ねた結果、発表のとおり、満場一致で「妖怪お悩み相談室」が大賞を、「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」が佳作を受賞することに決まった。

第16回にして、久しぶりに和風ファンタジーの作品が大賞となった。好感度の高いこの作品が、ジュニア冒険小説大賞のイメージをよりいっそう高めてくれることを期待している。

大賞 「妖怪お悩み相談室」 清水温子
佳作 「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」 真夜 寛

2018年 12月
ジュニア冒険小説大賞選考委員会

選考委員の選評

選評 後藤みわこ

「ジュニア冒険小説大賞」は新人賞です。新人作家として、児童書界にデビューするために大事なことだと思いますので、最終選考会で出た話題をいくつかまとめてみます。

【タイトル】……「この作品が本になって書店や図書館の棚にさしてあるとしたら?」とイメージしてください。読者からは背表紙のタイトルしか見えません。興味を惹かれますか? 記憶に残りますか? あまりに抽象的だと目が素通りしそうです。実際には出版時にタイトルを変えることもありますし、内容さえ良ければOKというのも間違いではないのですが、タイトルにまで気を配って応募しているんだな、となれば、作者の、書き手としての印象はアップします。

【梗概】……あくまでも客観的に、淡々と内容を説明してください。「一生懸命書きました」的な挨拶は不要です(一生懸命書くのは当然で、全応募者に共通です)。キャッチコピー的な文を添えるのもやめましょう。それは梗概ではありません。

【略歴】……これはかつてわたし自身も経験した失敗ですが、応募歴は不要です。「〇〇賞一次通過」というのは、落選記録にすぎませんから秘密にしておきましょう。最終選考まで行ったという情報も、選考する側にとっては落選記録としか映らず、シード権的なものも発生しません。自費出版歴も同様です。経歴としてプラスにはなりません。

選考は、応募された作品本位です。それはゆるぎません。でも、内容以外の部分で逆アピールしてはもったいないと思います。

最終選考会は、同レベルの作品がしのぎを削る場。新人賞は「同じ業界で働く人を見出す場」でもあります。原稿の書式や誤字脱字誤変換に気を配るのと同じように、その外側にまで気をつけてみてください。結果も変わってくるかもしれません。

選評 眉村卓

「いつか、きっと。あの日の約束―」
付喪神の話である。まずまずの仕立てで、対象年齢にも合っている気がする。いささか<具>が多すぎる印象で、乱暴な感じの部分もあるけれども、無難と言うべきか。

「アン・ドゥ・ストーン」
よくありそうな、ディズニー作品を思わせるお話。人物の描き分けや叙述はいい。古いとする人もあるだろうが、これはこういうものなのであろう。

「妖怪お悩み相談室」
妖怪相談室という、いわば鬼太郎側からの設定。妖怪にもある人間関係的な悩みが眼目かも。学校怪談パロディの娯楽版としてそれなりに仕上がっていると思う。

「クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲」
テンポが速いし読みやすい。設定が目新しいのもたしかである。しかし具体性が欠けていて、よく見えてこないのが残念。

「ウラトイレの探し物」
発想が変で、ハチャメチャを連想させる面白さがある。ただ具体的には全く欠けているのだ。奔放さは買うけれども、これで一般的評価が得られるかとなると、むずかしいのではないだろうか。

「未来石」
かなり考えて作り上げた話、という印象。作者が努力したのは認めるものの、話の出し惜しみというか、作者がひとり勝手にドラマを進めているところがある。

選評 南山 宏

選評を記す前にちょっと触れたいことがある。本賞並びに併設の福島賞(SF童話賞)の作品募集が隔年制になったので、応募数が倍増とまではいかなくとも多少は増えるかなという淡い期待もじつはあったのだが、結果はやはり例年と全然変わらなかった。どうも世の中、計算通りには行かないようだ。

もうひとつ指摘すれば、今回で14作目になる大賞受賞作品(残念ながらあと2回は受賞該当作がなかった)の圧倒的多数が、舞台設定は古代世界だったり現代世界だったり、また架空の異次元世界だったりしながらも、いわゆる「和風」テーストの濃密なファンタジーやホラー作品でほとんど占められてきた。大賞受賞作が出なかった2回(第12回と第13回は佳作のみ)は別として、純然たるミステリー(推理小説)とSF小説の受賞は、現在のところそれぞれ1回ずつだけに終わっている。応募規定の上では決して「和風」に限定も優先もしていないにも関わらずだ――。

その意味では今回の大賞受賞作『妖怪お悩み相談室』も、その「和風」路線にすんなりと乗る妖怪ホラーコメディである。タイトルからすると一見、さまざまな妖怪に悩まされる人間たちのよろず相談所かと思われそうだが、じつは真逆でボスの「ぬらりひょん」爺いと副室長の〝ろくろ首〟お姉さんが開いた「妖怪相談室」にひょんな失敗が縁で電話番に雇われた小学六年生のリカを主人公に、人間界にこっそり同居(?)している妖怪たち――「あかなめ」や「ヨジババ」(4時婆)から「電話のメリーさん」や「トイレの花子さん」はては理科室の人体ガイコツ模型、音楽室のモーツァルト画やベートーベン画と校庭の二宮金次郎像などの付喪神(?)たちに至るまで、おなじみのさまざまな「学校の妖怪・幽霊」たち――から受けた悩み事の相談を、名答名案を繰り出して解決する「ユーモア学校怪談」に仕立てられている。会話の出し入れも地の文も終始テンポよく運ばれて過不足がなく、受賞者は年齢からみても、これからの活躍を大いに期待できる伸びシロの大きい才能と見た。

佳作『クラウドハンター 黄色い翼と黒い雲』はそれとはがらりと打って変わった想像力逞しいSFファンタジーだ。異常気象が半ば「正常」となった未来世界で、稲妻が閃き走る密雲の空を飛翔しながら、地表に害を及ぼす「邪悪な黑雲」退治を業とする年少兄妹の空中冒険が描かれる。改行を多用して単語と短句を連打する出だしはツカミとして秀逸で、書き手の文才を強く感じさせる。「黒雲狩り」「レモン色の無雲機」「緑色の群雲鳥【むらくもとり】」と並べただけでも、作者の色彩的な造語感覚が際立っている。

ただ、選者のひとりがいみじくも指摘したように「どことなくジブリっぽさ」が感じられる点がマイナス要因のひとつとなったようで、惜しくも佳作にとどまった。
最終選考まで残ったほかの4作品は、いずれもアイデアと文章力はほぼ過不足がないものの、私の見るかぎりでは上記2作と比べて物語の展開の仕方と結末のつけ方のいずれか、またはその両方に難があり、残念ながら最後までは推せなかった。

選評 島岡理恵子(岩崎書店)

隔年開催となりましたが、一定の応募数があるのは喜ばしいことです。

「冒険小説大賞」というイメージは、私の中では、読み出したら止まらない、残りが、あとわずかなんて惜しいと感じるくらい、読者を引き込む魅力があるものだと思います。長編ならではの人物造形、物語展開、文章力。ワクワクするようなものが作品にあふれています。

もちろん日常の何気ない部分にも冒険と呼べるものはあるかもしれません。ハイ・ファンタジーのように見知らぬ世界を歩いて、何かを達成するというだけが冒険ではないと思いますが、あまりにも日常生活のやりとりだと、内容的にある程度水準に達していたとしても、この賞としてはどうだろうかという議論がありました。

最終選考に残った作品は点数だけでいうと、それほど大差はなかったのですが、議論していく中で、比較的意見はまとまっていきました。

大賞になった作品にはそれだけの魅力がありました。佳作の作品については、初めは読みにくかったのですが、後半からテンポよく動いた気がします。ただ、既存のアニメも連想してしまいました。オリジナリティーをどこまで出せるかが今後の進化になるでしょう。

「いつか、きっと。あの日の約束」は個人的には好きな作品ですが、主人公たちがあまり動いていないのと、神様のお手伝いもあっけないのが残念でした。つくも神もよく使われる題材ですから、またかと思われないことも大事です。妹を救うシーンにも、もう少し盛り上がりがあってもいいのではないかと思いました。

今回惜しかった方々も、またぜひチャレンジしていただきたいと思います。

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