怪談えほん | 岩崎書店

恒川光太郎先生インタビュー 『ゆうれいのまち』 イメージはひとりぼっち

当代の人気作家5人が子ども向けの「怖い」絵本に挑戦する画期的な企画「怪談えほん」シリーズ。いよいよ完結となった5作品目、加門七海(作)/軽部武宏(絵)の『ちょうつがいきいきい』が刊行されました。そこで、刊行を記念して、作家と画家のお二人にお話しいただきました。司会は怪談えほんの監修者である文芸評論家、アンソロジストの東雅夫さんです。

(インタビュー=東 雅夫、構成・文=タカザワケンジ、協力=オンライン書店ビーケーワン)

ともに下町育ちの小説家と画家が、子どもが本気で怖がる絵本を作った舞台裏を語る!

──ついに怪談えほん全5巻の掉尾を飾る『ちょうつがいきいきい』が刊行されました。お二人には『幽』第16号の特集(「震えて眠れ、子どもたち」)ですでに対談していただきましたが、あのときはまだラフの段階でしたよね。

軽部
ラフとはかなり変わりました。僕は空気感から描き始めるので、あの頃はまだ雰囲気のベースを作っていたところだったんです。あの後、とくに苦心したのはお化けをどう描くかですね。あまりキャラクターみたいにならないように、でも、奇をてらいすぎない感じで。だから、ラフとはお化けのかたちがぜんぶ違うんです。

──加門さんは完成した絵をご覧になって、作者として、どんな御感想を?

加門
期待以上でした。私はもともと絵本は絵が主だと思っているんです。割合にすると絵7、文章3くらいじゃないですか。これだけの絵に文章を添えさせていただいて光栄だという感じですね。
軽部
そんなことはないですよ。そもそも加門さんの文章がなければこんな絵は出てきませんから。

──そうですよ。こんな救いも何もない惨い話、加門さんでなければ考えつきませんよ!

加門
そうでしょ。生きていると読んでもらってもかまわないんです。「道に飛び出すと危ないよ」という教訓も入っていますし。
 

(一同爆笑)

加門
飛び出すとこんなことになっちゃうんだよ、と(笑)。
軽部
そういう感想を持つ子どもがいたら面白いですけどね(笑)。

──最初に怪談えほんの依頼を受けたときに、加門さんが思われたのは、どんなことでしたか。

加門
「めざせ! トラウマ絵本」。大人になったときに、断片的にでも「タイトル忘れたけどキイキイいう怖い絵本があった」と思い出してもらえるような本が作りたいと思ったんです。

──お話を書いたときには、どんなことに気をつけようと思われましたか?

加門
加門先生 インタビュー写真小さい子どもに最後まで読んでもらえることと、子どもの頭に残りやすいようにということですね。
最初の企画では押し入れを使おうと思ったんですよ。でも、最近のマンションとかって押し入れがないうちが多くて。とはいえ、クローゼットは違うと思ったんです。それで「ちょうつがい」を持ってきました。たぶん子どもは「ちょうつがい」という言葉はわからないでしょうけど、「ちょうつがい」って何か気持ち悪い言葉だなと思ってもらえればいい。
子どもたちの身近にあるもの、絶対に目にするものにお化けを潜ませて、「うちの部屋にもこれある! ここにお化けがいるのかな」と思うような絵本にできないかなと思ったんです。

──軽部さんは、加門さんの文章を初めて読んだ際、どんな御感想を?

軽部
絵本はオチのあるお話が多いので、まず「終わってない」ところがいいと思いました。直感的にこれはイケる! と。いままで絵本を作ってきて思うんですが、なんでもかんでも終わりがなくてもいいと思うんです。ずーっとこの後も続いていくような感じが絵本にあってもいいじゃないですか。最後に「きいきい」と音だけが後を引く感じが気持ちいいような、そんな絵本が描けたらいいなと思いました。

──『幽』の対談でも、絵本業界にはいろいろと制約が多いというお話が出ましたね。

軽部
僕の話ではないんですが、『舌切り雀』の絵本で、雀の舌が切れて血が出ている絵に保護者からクレームが来たという話を聞いたことがあるんですよ。わざわざ残酷な場面を子どもに見せなくてもいいだろう、と。実際に、業界全体で自主規制が強まっているような気がします。なので、このお話をいただいたときには、思う存分できるぞ、と(笑)。嬉しかったですね。

──実際、やりたい放題の(笑)作品になってますよね。

加門
軽部さんの絵は勢いもあるんですけど、実は細かいところを見ていくといろいろと発見があるんですよね。こことか、ちょっと怪しいものが写り込んでいたりとか。
軽部
気づきました? さすがです(笑)。ここ、気づいてもらえました? 手が……。
加門
ああ、わかります。押された感じになっているんですよね。嫌ですねえ。
 

(どのページの絵かは絵本を見てご想像ください)

軽部
猫好きな加門さんに怒られるかなと思ったのが、このかわいくない猫なんですけど。
加門
いやべつに。むしろ可愛い猫だったら辛かったかもしれない(笑)。
軽部
この猫もラフのときはふつうの猫だったんですが、描いているうちにだんだんとこうなったんです。
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ラフではかわいらしかった。『となりのトトロ』のねこバスみたいでしたね。
加門
これなんかお化けが痛そう(笑)。
軽部
「きいきい」って悲鳴のイメージだったので、痛がっているお化けというイメージはありました。
軽部先生 インタビュー写真

──今回、全5冊が出揃ってみて感じ入ったのは、どれもがまったくかぶってないことです。宮部・吉田チームの『悪い本』はモダンホラーの基本というか、その根源にあるものを直截に描いている。皆川・宇野チームの『マイマイとナイナイ』は幻想文学の王道でしょう。京極・町田チームの『いるのいないの』はホラー・ジャパネスクの真髄。恒川・大畑チームの『ゆうれいのまち』はダーク・ファンタジーのエッセンス……それぞれの分野の根源的魅力が、最小限の文章と絵によって表現されているという印象を受けます。
そうやって分類してみると、この『ちょうつがいきいきい』は何なのか。怪談なんだけど、京極さんがおやりになった、だんだん手順を踏んでいって、最後にぎゃーッと言わせるというあのパターンではない。あえて言えば「惨い本」。作者の性格がもろに出ているような気がするんですが(笑)。

加門
そうかしら(笑)。どんなものを書いても自分が出てしまうのはあたりまえなので、この本の場合は、子どもにどう読まれるかだけを考えたんです。だから、あまり前置きが長いと飽きられそうだから最初にお化けを出しちゃおうとか、子どもってへんな呪文が好きで、繰り返しも好きだから、子どもの頭に残るフレーズを、と考えながら書いたんです。
でも、よく考えたらお金を出して買うのは大人なんですよね。そこはすっかり抜け落ちてました(笑)。

──読み聞かせする方は大変でしょうね。「この男の子、どうなっちゃったの?」と子どもたちに聞かれて、どう答えるのか……(笑)。しかし、問答無用で怖いという意味では、企画の趣旨に叶った、有終の美を飾るにふさわしい、振り切れた作品となったように思います。

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このシリーズのなかで主人公の年齢がいちばん下なんですよね。人生最初に怖いものに触れてほしい、という意味では対象年齢にぴったり重なる絵本なんです。
加門
絵本を調べると「怖い」絵本って意外とないんですよ。お化けが出てきてもお化けと仲良くなるとか、ほんわかするものがほとんど。でも、本当に怖いものって、泣きながらもワクワクする部分ってあると思うんですよ。恐怖の中に潜むカタルシスみたいなものを与えたいなと思ったんですね。
怖いもの、危険なものを排除すればいい子に育つと考えている親って多いじゃないですか。でも、そんな風潮のなかで、本当はそうじゃないと思っている人も多いと思うんですよ。

オンライン書店ビーケーワンで本書を2012年4月23日(月)までにご購入いただくと、
購入者特典として、こちらのインタビューの完全版がお読みいただけます。

怪談絵本シリーズ ラインナップ

宮部みゆき x 吉田尚令 『悪い本』 皆川博子  x 宇野亜喜良『マイマイとナイナイ』 京極夏彦 x 町田尚子『いるの いないの』 恒川光太郎 x 大畑いくの 『ゆうれいのまち』 加門七海   x 軽部武宏 『ちょうつがい きいきい』

恩田 陸×樋口佳絵『かがみのなか』 岩井志麻子×寺門孝之『おんなのしろいあし』 綾辻行人×牧野千穂『くうきにんげん』    高橋克彦 小野不由美