怪談えほん | 岩崎書店

宮部みゆき x 吉田尚令 『悪い本』

2011年10月から「怪談えほん」シリーズが刊行スタートしました。
第1弾となる『悪い本』の刊行開始を記念し、怪談えほんシリーズの監修者・東雅夫さんが宮部みゆき先生にお話をうかがいました。企画に参加するにいたった経緯、どんな怪談を目指そうとしたか、画家さんとの創作上やりとりなど、『悪い本』が生まれるまでの秘話を存分に語っていただきました。

(インタビュー=東 雅夫、構成・文=タカザワケンジ、協力=オンライン書店ビーケーワン)

怪談えほんに参加した理由

――実は「怪談えほん」という企画を起ち上げたときに、まっさきに頭に浮かんだのが宮部さんの笑顔でした。でも、宮部さんはなにぶんにも御多忙だし、これまで子ども向けの絵本を手がけられたこともないので、果たして受けていただけるかどうか。不安と期待を抱きつつお願いしたんですが、意外にもふたつ返事でご快諾いただいて(笑)。

宮部
「ハイ、やります!」みたいな感じでした(笑)。絵本は過去に一つだけ、黒鉄ヒロシさんに絵を描いていただいて『ぱんぷくりん』(〈鶴之巻〉〈亀之巻〉の2巻本、PHP研究所、2004年)という本を出したことがあるんですが、それは、いわゆるホンワカ系の本なので、今回とはまったく違うんです。

――宮部さんは、絵本はもともとお好きなんですか?

宮部
絵本とはあまり関わりがなかったですね。いらっしゃいますよね、大人の方で絵本がお好きな方って。でも、私自身はそういうタイプじゃないんで

――では、引き受けていただいたのはどういう理由だったのでしょうか。

宮部
怪談えほんと聞いて、まず思ったのが「絵が付くんだ!」ということ。何しろ、私は雑誌や新聞の連載の何が楽しいかって、挿絵がつくことだ、という人なので。まずそれが、お引き受けする理由の一つでした
それから、ほかの作家の方々のラインナップがすばらしいし、子どもたちに怖い本、それもフィクションを読んでもらうことは、とても大切なことだと思いました。
それにもう一つ。依頼が本文は800字から1000字で、ということでしたよね。つまり、私なりの「てのひら怪談」を書けばいいんだ、と。私、「てのひら怪談」シリーズを愛読している者なので。
でも、読むのは好きですけど、800字以内で怪談を書くのは難しいと思っていたので、これは東さんから「てのひら怪談を書け」という、クエストを与えられたのではないかと(笑)。

『悪い本』のストーリーができるまで

宮部
最初のうちはオーソドックスな怪談にしようと思っていたんです。鏡を使った怪談にしようとか、子どもが通学路で何かを見るとか。でも、どれも1000字じゃ収まらないんですよ。 あるとき、お風呂に入っていて、「本が語りかけるようにしよう」と閃いて、そうしたら、ポンポンポンと書けちゃったんです。言葉を入れ替えたりしながら、一時間くらいで最初のひな形ができました。その後、プリントアウトしたものを読み直して、悦に入っていました(笑)。
翌日が大沢オフィスの会議だったので、最初に京極(夏彦)さんに見せたんです。そうしたら「怖いです。何が怖いって作者が怖い」って(笑)。

――それは大変な褒め言葉ですな(笑)。今回のラインナップのなかでも、宮部さんの作品はとりわけ異色です。問題作として轟然たる反響を呼ぶことと期待しています。

宮部
問題になりすぎて、有害書籍を入れる白いポストに入れられちゃったらどうしよう、と心配してます(笑)。

画家はどのようにして決まったか。

宮部
岩崎書店さんが12人くらいの画家さんのファイルを作って送ってくださったんです。それをばーっと見て、最初から吉田(尚令)さんにお願いしたいと思いました。ピンと来ちゃって、迷いはありませんでしたね。吉田さんのスケジュールがあるから第三候補くらいまで出さないといけないのかなと思ったけど、どうしても吉田さんで、とお願いしたらご快諾いただけて。

――吉田さんの絵のどんなところに、とくに惹かれたんでしょうか。

宮部
可愛いさと怖さが同居しているところですね。可愛いはずのものを描いていて、描線も可愛いのに、なんか怖いんですよ。実際、最初に『悪い本』のラフをいただいたときにも「そう、これこれこれ~」みたいな感じでした。その瞬間は、「絵本ってオイシイな」って思いました(笑)。建物にたとえれば、鉄骨を建てるだけで、あとは画家の方に描いてもらって建物が完成するわけで。
でも、『悪い本』で使った手は二度と使えないからなあ。京極さんは怪談えほん向けの話をいくらでも書けるって言っていたけど、私はもう一度書けって言われたら悩むでしょうね。もしかしたら、『悪い本』が最後の絵本になってしまうかもしれません。

すべての作品に通じるテーマ 起点は「悪」

――宮部さんは一作ごとに新しい試みを続けていらっしゃいますが、今回の『悪い本』はこれまでの作品のなかでも重要な位置を占めることになるのではないでしょうか。宮部さんご自身は絵本を書いてみてどんな感想をお持ちですか?

宮部
絵本だから、ということではなく、結局、現代もののミステリで書いていることをそのまま書いたような気がしています。一言で言ってしまえば「悪はあなたの内側から来る」ということなんですよね。
いま、地方紙で連載している現代ミステリもマルチ商法を題材にしていて、テーマの一つが「悪は伝染する」なんです。首尾一貫しているといえば首尾一貫している。「この世の中でいちばん悪いことは何かしら」ってことを、ずっと書いているのかもしれない。
『悪い本』に限ったことでいえば、語弊はあるかもしれないけど、子どもには嘘をつけないと思うんです。だから、いちばん正直な自分が出るんでしょうね。邪(よこしま)な私が……(笑)。

――ああ怖いよう(笑)。宮部さんといえば、初期の超能力テーマの作品から、『おそろし』に始まる百物語連作まで、つねに起点が「悪」にあって、そこからいろいろなジャンルの作品へと広がっていく。今回の『悪い本』は、子どもたちばかりでなく、長年の宮部ファンにとっても、きっと大切な一冊になると確信しております。

オンライン書店ビーケーワンで本書をご購入いただくと、
購入者特典として、こちらのインタビューの完全版がお読みいただけます。

怪談絵本シリーズ ラインナップ

宮部みゆき x 吉田尚令 『悪い本』 皆川博子  x 宇野亜喜良『マイマイとナイナイ』 京極夏彦 x 町田尚子『いるの いないの』 恒川光太郎 x 大畑いくの 『ゆうれいのまち』 加門七海   x 軽部武宏 『ちょうつがい きいきい』

恩田 陸×樋口佳絵『かがみのなか』 岩井志麻子×寺門孝之『おんなのしろいあし』 綾辻行人×牧野千穂『くうきにんげん』    高橋克彦 小野不由美