2011年10月、宮部みゆき+吉田尚令の『悪い本』を第1回配本として、岩崎書店版〈怪談えほん〉シリーズは、呱々の声をあげました。
怪談や幻想文学の第一線で活躍する作家たちと、ベテランから新進まで異彩を放つ作風で実績ある画家たちとが相携えて、子供たちの柔らかな魂を揺さぶり、視えない世界への畏敬の念や未知なるものへの憧れを育むような、かつてないコンセプトの絵本を生み出したい!──監修者と編集者たちの熱き思いに始まった企画でした。
それは同時に「恐怖や怪異を主眼とする絵本」に対する根強いタブー意識への挑戦でもありました。おりしも当時の日本は震災後の混沌とした状況下にあり、こうした野心的試みがすんなり受け入れられるのか、不安を抱えた出立となったのです。
けれども幸いなことに〈怪談えほん〉は、発売直後から大きな反響を呼び、全国各地でトークイベントや朗読会、原画展が開催され、子供から大人まで幅広い層に愛される、息の長いシリーズに成長していきました。
2014年には、恩田陸+樋口佳絵の『かがみのなか』を皮切りに、第2期がスタート。これまで合計九冊を世に出して、現在に至ります。
そして今──私たちは第1期・第2期の実績を踏まえつつ、〈怪談えほん〉の新たなステージへ踏みだそうと決意しました。
その手始めに昨年実施された「怪談えほんコンテスト」には、実に3000篇を超える応募作が寄せられ、本シリーズに対する期待と関心の大きさを、あらためて実感させられた次第です。
このたび満を持して刊行が始まる「怪談えほん 第3期」には、あさのあつこ、有栖川有栖、佐野史郎、藤野可織、夢枕獏(50音順)という一騎当千の多彩な作家たちが集結、それぞれの物語にふさわしい画家たちと手を携えて、まだ誰も見たことがない、妖しく美しく怖ろしい絵本世界が着々と胎動しつつあります。
怖い話や不思議な話には、人間の生の根幹に触れる真実が秘められています。磨き抜かれた言葉とヴィジュアルを通して、その真価(エッセンス)を子供たちに伝えること──それは必ずや読者である子供たちにとって、混迷する現代を力強く生き抜き、未来を切り拓く、心の糧となるはずです。
第1期、第2期の成果を踏まえた私たちの新たな取り組みに、何卒よろしく読者諸賢の御理解と御支援を賜わりますよう、お願い申しあげます。
〈怪談えほん〉シリーズ監修/文芸評論家
東雅夫