大人気絵本『パパのしごとはわるものです』『パパはわるものチャンピオン』(板橋雅弘・作/吉田尚令・絵、岩崎書店)が、夢の豪華キャストにより実写映画化されました。主演は、“新日本プロレス100年に一人の逸材”エース・棚橋弘至さん。プロレスが題材の作品で、悪役レスラーを演じるということに、どんな思いを抱いたのか。2018年9月21日の劇場公開を前に、大のプロレスファンであり、プロレス関連の著書もある板橋雅弘さんがインタビューしました!
板橋
映画化の話があったのは、2017年春でしたが、その前からこの絵本を知っていたそうですね。
棚橋
はい。僕には二人子どもがいて、小さい頃からずっと、家で絵本の読み聞かせをしていたんです。小学校に上がってからは、試合がないときに学校行事の「読み聞かせ当番」も担当してきました。だから、読み聞かせ用の絵本をいつも気にして探していたんですが、そんなとき、書店でたまたま見つけたのがこの絵本で。
板橋
1作目の『パパのしごとはわるものです』(2011年刊)ですね。
棚橋
プロレスラーが描かれていたので本を開いたら、たちまちストーリーに共感してしまって。そして、そこに登場するドラゴン・ジョージを見て「これ、オレじゃん!」と。
板橋
似てるはずですよ。ドラゴン・ジョージは棚橋弘至をイメージして書いたんだから(笑)。
棚橋
金髪、メッシュ、白タイツ。まんまオレだな、と(笑)。プロレスをまったく知らない子どもたちにも興味を持ってもらういいチャンスだと思って、買ったんです。それがこの絵本を知ったきっかけです。
板橋
それで、2作目の『パパはわるものチャンピオン』(2014年刊)に、顔写真入りのオビ文を寄せてくれた。
棚橋
はい。この2作は、小学校の「読み聞かせ当番」で、何度も読んでるんです。
板橋
ところが、いざ映画化が決まってオファーされたのは、ゴキブリマスク役! 僕は、絵本の中では、明らかに棚橋さんをドラゴン・ジョージとして設定してたんです。映画ではまったく逆のゴキブリマスクを演じることになって、どんな気持ちでしたか?
棚橋
てっきり、ドラゴン・ジョージ役だと思っていたので、正直驚きましたけど、「わかる」とも思いました。というのも、昔エースでチャンピオンだった人が、ケガや世代交代によって、今はヒールをやっているという状況が実際のリングでもあって、それとシンクロしたんですよね。
板橋
1作目の絵本を企画したのは10年くらい前なんだけど、10年前の棚橋さんは、まさしくチャンピオンで、ポーンと出てきた頃でした。
棚橋
でも10年経つうちに、内藤哲也とか、オカダ・カズチカとか、新しい世代が出てきたり、僕もケガをしたりして、追われる状況にもなっている。そんな中で、映画の話をいただいて「ゴキブリマスクも、オレじゃん」って思ったんですよね。だから、ドラゴン・ジョージとゴキブリマスクを一人二役できる。
板橋
言ってみれば、時間軸の違う棚橋弘至が二人いる、みたいな。
棚橋
だから、ゴキブリマスクを演るにあたって、悪役を演じなきゃと感じることは、全然なかったですね。まんま、今の自分だという感じでした。
板橋
棚橋さん自身が悪役をやりたいと思ったことは?
棚橋
いや…。実はやってました。
板橋
えっ? それは、メキシコ修行の頃?
棚橋
いえ、日本です。2006年から2009年頃まで、何度IWGPチャンピオンになっても、ずーっとブーイングを浴びてたんです。どんな相手と試合しても、棚橋にはブーイングがくる。ならばいっそ、キザでチャラ男で自己陶酔型な「オレってカッコイイだろ」みたいな方向性に振り切ろうと、いけすかないヤツを演じてました。
板橋
ヒール(悪役)というわけではないけど…
棚橋
はい。形はイレギュラーだけど、悪役的なポジションということで、3年くらいやってました。僕、特殊なんですよ、経歴が。
板橋
ところで、棚橋さんは、ファイトスタイルを変えていないですよね。例えば、藤波辰爾さんにしても、武藤敬司さんにしても、必殺技を変えたり、年齢相応の闘い方に変えていきましたけど。
棚橋
僕も、近い将来、ファイトスタイルを変えていく可能性はあるわけですけど、飛べるうちは飛びたいと思いますね。
板橋
やっぱりハイフライフローに対するこだわりは強いんですか?
棚橋
試合後の充実感が一番なんです。もう動けないくらい、力を出し切ったってところに、この仕事の醍醐味があるんで。
板橋
でもそれはハイフライフローを飛ばなくても、テキサスクローバーホールドとかでも充分疲れる技ですし、それで勝ったとしても充実感は得られるのではと思うんですが。
棚橋
会場に満ちるファンの期待感、「棚橋飛んでくれ」っていうのを、やっぱり感じるので。
板橋
映画の中でも、ゴキブリマスクは必殺技“ フライハイ”にこだわってるんですよね。ゴキブリマスクになる前の大村孝志が、エース時代に代名詞として観客に絶大な人気のあった技。決まったときの見応えは抜群なんだけど、膝への負担がすごく大きい。
棚橋
で、この技が原因で故障して、エースの座から落ちることになった。
「ライオンプロレスのエースとして、冬の時代を乗り越え、再びプロレスブームを呼び込んだチャンピオン、大村孝志。やはりZ-1クライマックスの大舞台初戦を締めるのは、この男のあの技なのか。海外遠征を控えて大抜擢を受けた、次期エース候補の内岡和也に立ち上がるだけの力は残っているのか」
すっくとトップロープ上で姿勢を正すと、孝志は自身の代名詞となっているフィニッシュホールドを繰り出す前の儀式のように、観客に向けて両手をかざした。
それに合わせて、アナウンサーは絶叫した。
「出るぞ、必殺のフライハイ!」
期待に満ちた超満員の観客の視線に、孝志の高揚は頂点に達した。
(中略)
内岡和也が最後の力を振り絞って、マットの上でからだを反転させた。
だれもいないマットに、孝志のひざが突き刺さった。
左ひざに激痛が走った。
(『ノベライズ パパはわるものチャンピオン』p3~4より)
板橋
だから、僕は「棚橋、もう飛ばないでくれ」って最近思うんだよね。膝が心配だから。
棚橋
昔からのプロレスファンの方はそうだと思うんですけど、例えば、馬場さんだったら16文キック、猪木さんだったら延髄切り、武藤さんだったらムーンサルトプレスとかシャイニングウィザードとか、選手ごとに見たい技っていうのが必ずあって、あれ?今日出なかったなとなると、残念じゃないですか。そういうことがないように、僕はしたいんです。
板橋
観客思いだね~。
棚橋
この『パパはわるものチャンピオン』でもそうですけど、パパはこんな仕事をしてるんだって、子どもに胸を張れるような試合をね。膝が痛いとか、足腰悪いとか、そういう言い訳をしないってところを見せていきたいんです。
板橋
だから今も、ハイフライフローにこだわる、と。
棚橋
はい。飛べない棚橋は、ただのイケメンですから(笑)。
棚橋
絵本が原作となって映画が生まれたわけですが、このノベライズ版は、映画の脚本をもとに書かれたとか。どのくらい時間がかかったんですか?
板橋
これは時間をかけたんですよ。やっぱり映画がありますからね。映画の感じも反映したいし、映画と違ったものも描きたいし。まったく同じじゃ面白くないじゃないですか。その辺のかねあいを考えながら書き進めるのが難しかったですね。
棚橋
じゃ、映画とは違う結末に…?
板橋
いや、結末は映画に近いんですけど、途中の展開をだいぶ変えてるんです。映画と同じかなと思うシーンが、実はちょっと違っていたり、登場人物の名前を変えていたり。これは文字だけで読む本ならではの配慮で、そうなった部分もあるんですが。
棚橋
絵本では書けなかった、エピソードも入ってるとか?
板橋
そうそう。棚橋さんやプロレスファンの人が読んだら大笑いするような「プロレス小ネタ」を仕込んでいてね。これはアイツのことだろ、って突っ込みを入れながら読み進めると楽しいと思うよ。
板橋
ノベライズ版は、棚橋さんの試合を見ながら書いたから、大村孝志と棚橋弘至がかぶってきちゃって。
棚橋
今の棚橋とリンクするってことですか?
板橋
原作者の立場からいうと、映画公開が近くなったから、そろそろ…。
棚橋
リング上で棚橋が勝って、G1取ってというのが、一番のプロモーションですね。
板橋
じゃあ、G1チャンピオンになってもらって(笑)。
棚橋
はい。じゃ、ちょっくら優勝してきます(笑)。
この夏、海外遠征、G1クライマックスと大きなヤマを背負っている棚橋弘至さん。
超多忙な中、この日は映画プロモーションのための取材をたくさん受けておられました。
映画『パパはわるものチャンピオン』の公開は、9月21日(金)。
棚橋さんが熱演するゴキブリマスクに会いに、ぜひ劇場へお越しくださいませ!
(了)
「パパの仕事は悪役レスラー。最初はショックだったけど・・・・・・」
かつては人気レスラーだったが、怪我や世代交代の波に流され、悪役レスラー、ゴキブリマスクとして一生懸命戦う孝志。
「悪者がいないと、エースが活躍できないだろ?」
孝志はそう言うが、散々嫌われるゴキブリマスクが自分のお父さんであることをなかなか言えない祥太。
最初はショックで恥ずかしい気持ちだったものの、懸命に戦うお父さんの姿はだんだんかっこよく見えてくる。ゴキブリマスクの戦う姿に、息子を思う親心に、父子のそれぞれの眼差しと2人を見守る母の姿に、観る人みんなの心が熱くなる―。
著者 | 板橋雅弘・作 吉田尚令・絵 |
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出版年月日 | 2011/05/10 |
ISBN | 9784265070473 |
判型 | A4変 |
ページ数 | 32ページ |
定価 | 定価1,430円(本体1,300円+税) |
本を購入 |
著者 | 板橋雅弘・作 吉田尚令・絵 |
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出版年月日 | 2014/05/30 |
ISBN | 9784265081318 |
判型 | A4変 |
ページ数 | 32ページ |
定価 | 定価1,430円(本体1,300円+税) |
本を購入 |
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著者 | 板橋雅弘・著 藤村享平・脚本 |
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出版年月日 | 2018/06/30 |
ISBN | 9784265802418 |
判型 | 四六判 |
ページ数 | 304ページ |
定価 | 定価1,430円(本体1,300円+税) |
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著者 | 板橋雅弘・作 サトウマサノリ・絵 |
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出版年月日 | 2018/11/30 |
ISBN | 9784265081608 |
判型 | A4変型判 |
ページ数 | 32ページ |
定価 | 定価1,430円(本体1,300円+税) |
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