第15回選考経過、選考委員の選評

「ジュニア冒険小説大賞」は、今年で第15回目を迎えた。毎年開催していたものが、今回を最後に隔年となる。それによって応募者傾向や作品の質がどのように変わっていくのかは想像できないが、これまでの大賞受賞者でデビューを果たし、着実に作家としての道を歩んでいる方もいることを考えると、今後も質の高い応募作品を期待したい。ちなみに佳作受賞者でも他で大賞を受賞され、世に出ている方がいる。このジュニア冒険小説大賞の受賞者と並んで、児童書の世界を盛り上げてくれることを願ってやまない。

今回は歴代第6位、99編の応募総数だった。全体的な傾向としては、SFらしいものはあまりなく、ミステリー、ファンタジーが多かった。この賞が始まって以来、なぜか「和風」なファンタジー作品が多かったが、リアリズムが入ってくるなど、バラエティが出てきた。

また、従来多かった純粋な「児童文学畑」の応募者だけではなく、脚本家やコピーライターなど、言葉の仕事をしている方の応募がいくつかあったことも印象的だった。ステレオタイプではなく、今を生きる子どもたちに喜んで読んでもらえる、いきいきとした物語を紡いでくれる方たちの参入は大歓迎である。

一方で、児童文学を書き慣れ、応募慣れした方の作品が、新たな挑戦者たちのような評価を得られない。これまでに何度もあったことだが、この傾向は続いている。選考には残るのにその先に行けないのはなぜなのかを考え、突破口を見つけてもらいたい。

第一次選考は、例年通りすべての作品を対象に行われ、次の12作品が通過した。

「切手の王国ベル」 さと ようこ
「赤ちゃんは名探偵!」 葵日向子
「ハーブ・クエスト ~ハロウィーンの香草曲」 瑞紀
「神サミット2016」 安井やくし
「るるるる、ぱられる」 林けんじろう
「魔法航海士ととらわれの竜の姫」 うたた かんきつ
「三味線ブルース」 松下好美
「伝えて、花色氷」 真風月花
「真夜中の海を歩けばいいさ」 周防まひろ
「ブルーナイト・パーティー」 太月よう
「おでん町探偵・Wナンシー」 小路すず

この12作品を対象に第二次選考を行った。

前述のようにバラエティに富んではいるが、この賞のグレード(対象年齢)を無視していたり、書き手の趣味の世界(マニアック)を全面的に展開しているものも少なからずあった。また、この賞は「四百字詰めで換算しての枚数を明記」としており、書式設定は自由だが、字間が空きすぎていたり、逆に字や行が詰まりすぎていたり、読みにくいのもあった。変換ミスなのか、誤記誤植が目立つものも。

つまり、読み手を意識していないものが多いのだ。自分の書きたいものを書きたいように書いて、「思い」とともに勢いで送ってきても、そこには「受け取る人」がいることを忘れないでほしい。

わたしたちは開封して、ひとつひとつの作品を読んでいく。こちらのことを考えていないとわかる作品には、どうしてもマイナス感情が生まれる。一事が万事であり、これはプロになってからも同じだ。ひとりよがり感がぬぐえない作品を書き続けていくのは(そうした書き手を支えていくのは)現実的に難しい。

選考の結果、次の6作品が残り、最終選考会が行われた。

「赤ちゃんは名探偵!」 葵日向子
「神サミット2016」 安井やくし
「真夜中の海を歩けばいいさ」 周防まひろ
「ブルーナイト・パーティー」 太月よう
「<神の子>」 木村 文
「おでん町探偵・Wナンシー」 小路すず

「赤ちゃんは名探偵!」赤ちゃんと小学生の姉が探偵になって問題を解決する物語。赤ちゃんの存在はユニークだが、生後1歳にもならない彼女にどうして知識や語彙、世間知もあるのか、それが最大の疑問。また、小学生が赤ちゃんの世話をしている、というのも現実的にはありえず、別の問題が生まれる。姉妹のやりとり、テレパシー、コミカルな要素、テンポなどはなかなかいいので、詰めの甘さだけが惜しい。本業が脚本家ならではの良さがある。そんな作者の個性を生かした自由な作品を今後期待したい。

「神サミット2016」神社の狛犬が一定時間本物の犬となり、主人公は各地の神社に神サミットの開催を知らせにいく。同級生とのやりとりもほほえましく、楽しくて読後感もよい作品。しかし、字間の空いたレイアウトは読みにくい。また登場人物の苗字がやたらと難しかったり、名前が途中から変わったりするなど(文字変換ミスか)、いろいろな配慮がもう少しほしかった。タイトルの「2016」にも違和感がある。今年、伊勢志摩サミットがあったからかもしれないが、この作品が大賞を獲るとしたら世に出るのは「2017」年である。本文中にある「神サミット大作戦」でよかったのでは。神様を集めるまでがたいへんで、その後は案外あっさりしているのは、納得はできるが尻すぼみにも感じられた。

「真夜中の海を歩けばいいさ」文章はうまく、テンポよく読ませる。これはなかなかすべての書き手ができることではなく、才能を感じさせるが、この作品のテーマである「自殺」はどうしたものか。軽妙なロードムービーのような展開で、死ぬのは思いとどまるのかと思いきや、失敗に終わったといっても実際に決行したというのは、あまりにも重い。また他の最終選考作品もそうだが、細かいところで「?」が多い。「今年11歳になる六年生」、豚が「ビフテキ」になるとか。登場人物の勘違いだとしても、何らかのフォローはしてほしい。母親たちが類型的なのも気になる。読ませる力はあるので別のテーマで細心の注意を払って組み立て、また挑戦してほしい。

「ブルーナイト・パーティー」常連的に応募してくれる方の作品。草原に真っ黒な巨船、パラレルワールドなど、イメージが喚起されるが、世界観が伝わりきらないことが残念。細部をもっと丁寧に描いてほしい。また数字的におかしかったり、科学的な要素は現代の常識を踏まえてほしいと思う点があった。フィクションだからこそ、正確に書いてほしい。児童文学らしさは大事だが、大きなテーマとして「環境問題」を持ってくる必要はなかったのでは? 作者の持ち味である児童文学の枠に収まらない自由さ、スケールの大きさで、次の作品を書き上げてもらいたい。

「<神の子>」まだ若い書き手であるが、これだけ長い物語を書き上げたことは賞賛に値する。しかし、肝心の<神の子>が大事にされる理由や村の様子、外界を全く知らずに育った主人公が、戸惑わず、迷わず逃走劇ができるのはなぜなのかがわからず、話に乗っていけない。ゲームの世界ならいいのかもしれないが、約束事の説明だけされているのが続くと辛い。才能は十分感じるので、足腰を鍛えて、また一から新しい作品に臨んでほしい。

「おでん町探偵・Wナンシー」探偵ものとしてやや既視感はあるが、読者年齢から考えると、気にしなくてもいいのかもしれない。何より説明くさくないのが特筆に価する。先に進むにつれて状況がわかるようになっているのがうまい。読者を楽しませながら書いている。読者の年齢層を考えていて、途中で語られる「死」は大事な要素、という設定も巧み。伏線をきっちり拾っているところもいい。会話も自然でこなれている。一般的な「冒険」のイメージはないかもしれないが、主人公が主体的に動き、成長していくさまは「冒険」と呼んでいいだろう。やっと読者と地続きの物語が出てきた。

以上、最終選考会では各作品について討議を重ねた。
「おでん町探偵・Wナンシー」が抜群の評価を受け、改めて議論する必要もなく大賞に選ばれた。

佳作については、やや時間をかけて話し合いが行われ、まだ書き始めたばかりと思われる初々しさを評価し、今後に大いに期待したいということで「神サミット2016」が選ばれた。

次の開催は2年後になるが、応募者には精進して、次こそは大賞を狙っていただきたい。

冒頭にも述べたが、何より読み手を意識してほしい。原稿のレイアウトに気を配り、校正を十分するのはもちろんのこと、読み手の年齢、興味、心情に自然に応える形のものをぜひお願いしたい。このようなリクエストに対応することは、プロとしての最低条件である。この賞は「お祝い」ではなく、受賞作は長く続く作家道の入り口に立つデビュー作になる。その覚悟と気合を持ちつつ、柔軟に表現に反映させる新人の登場を待ちたい。

大賞 「おでん町探偵・Wナンシー」小路すず
佳作 「神サミット2016」安井やくし


2016年12月
ジュニア冒険小説大賞選考委員会

選考委員の選評

選評 後藤みわこ

選考委員になって5年たちました。初めての選考から「なぜ応募作にはファンタジーが多いんだろう」と首をかしげていました。

冒険=異世界ではないはず……現実世界で、実際にありそうなできごとに対して、主人公が知恵や勇気で活躍・解決すれば、それも「冒険」ではないの? と。
今年は「真夜中……」と「おでん町……」という、魔法も超能力もない作品が最終選考に上がり、わたしは高い評価をつけました。
ただ、「真夜中……」を最終選考で推すことはできませんでした。(ネタバレですが)主要登場人物が自殺を図るからです。助かったのは「結果」にすぎません。これを子どもたちに届けられる? と問われれば、答えは明らかでした。

児童文学とは「児童が主人公の作品」ではなく、「児童が読める・楽しめる(児童に手渡せる)作品」だと思います。周防さんにはその筆力を活かして、児童書として出版できるものを書いていただきたいです。
日常的な(現実にありうる)冒険を描き、最終選考をクリアしたのが「おでん町……」でした。伏線の張り方等、ミステリーとしてもうまくできているなぁと楽しみました。こちらも「死」が扱われていますが、その点が問題になるような書き方ではありません。

異世界ものも選考会に上がってきました。でも、児童向けに200枚足らずで描くには相当の空想力と筆力が要ります。その世界について、歴史、地理、文化等をイメージしたうえ、それを読者(子どもです)に理解できるように表現しなければならないのですから。
異世界を中途半端に描くくらいなら、身近な世界の身の丈にあった「冒険」をきっちり書いてみるのもいいのじゃないでしょうか。

15回目にして、「この賞ではファンタジーはもちろん、SFもミステリーも受賞するのだ」と証明できました。再来年の第16回も、ワクワクする物語をお待ちしています。

選評 眉村卓

※今回、眉村先生は体調不良のため最終選考会にはご欠席されたため、最終選考会に寄せられましたコメントを掲載します(岩崎書店編集部)。

選考会に出席できない状況なので、最終選考対象になった作品についての感想を番号順に書きます。

「赤ちゃんは名探偵!」
アイデアとしては、意表をつく面白さがあるけれども、やはり頭の中で作った感じで、無理がある。まだ人間として外界を見ておらず世間知ゼロの赤ん坊に、この役目を持たせるのなら、普通の赤ん坊を超越した何かが欲しい。また、赤ん坊にしかない感覚がいかに武器になるか、まで行っていれば、新鮮だったのではないか。

「神サミット2016」
神サミット開催通知の使者になった少年という設定が面白い。白黒両方の狛犬の個性や全体の会話で読ませる。何だかカッコよく、しかし小さく仕上げた感じ。全体として、話がうますぎる気がするけれども、まあ、割合楽について行けた。

「真夜中の海を歩けばいいのさ」
終わり近くになってから、作者が何を言いたかったのか、テーマが浮かび上がってくる。だが正直、「自殺行」にどこかお遊びの趣があり、途中の脱線(?)もサービスめいていて、切迫感に乏しいと思った。こういう少年は、こういうものなのだろうか。いささか自意識過剰なのを、意欲と取っていいのかもしれない。

「ブルーナイト・パーティー」
スピルバーグばりの、いい話である。別の言い方をすれば、SFとしてはまあ定式的設定であって、それがどう受け止められるかであろう。話の進め方は順調で、大きな穴もないと感じた。話が単純だからと言われればそれまでだろうが。まあまあの作品。

「<神の子>」
この作者には、エリート願望があるのではないか。また、自分の中の神の子や村の外の世界というもののイメージを、そのまま読者に押しつけるのも、きつい。つまりは逃走話なのだが、私にはどうしても、この世界の生産構造が不明な点や、意外にせこいクスリや道具などが出てくることなどが、気にかかった。そもそもこの主人公が、そのときどきの状況に適応できるはずがないだろう、との疑念もあった。

「おでん町探偵・Wナンシー」
話の進行が速い。わかり易い筋書き。面白がって読む人は少なくないだろう。――ということをまず認めた上で、文句をつけると、半分マンガだ、古くないか? これで主人公が10歳? 芝居っ気が強すぎる、いささか強引で作者がまず楽しんでいる、ということになるだろう。私としては、好き嫌いの問題ではあるまいか、と、考える。悪くはなかったのだ。

選評 南山 宏

結論から先に言えば、今回の大賞受賞作は本賞制定後15回目にして初めて、これまで毎回の受賞作品のほぼすべてを占めてきたいわゆる「和風ファンタジー」ではなく(1作だけはSFプロパーの作品だったが)、ミステリー(推理小説)のジャンルに明快に分類できる秀作となった。これはジュニア(小学高学年)向けの冒険小説賞としての本賞の幅の広さを、将来本賞に応募するみなさんに送る暗黙のメッセージともなりそうだ。

その大賞受賞作『おでん町探偵・Wナンシー』は、タイトル通り名前を縮めればナンシーと読める少女と祖母のコンビ探偵が、呪いのかかった(?)幽霊屋敷の幽霊を追い払ってほしいと依頼され、夜の無人屋敷に張り込む――一見お化け話のようだが、全然そうではないところがミソだ。「『おでんまち』は漢字で小伝町、だから食べ物のおでんとは何の関係もない……」という人を喰ったような書き出しから始まり、会話も地の文も終始テンポがよく軽快で、登場人物たちのキャラの描写もそれぞれよく立っている。「あの屋敷には呪いがかけられている」「死人がふたりも出た」という一見恐ろしげな話も、最後は意外なオチがちゃんとつけられ、対象読者年齢に対する配慮もぬかりない。読者が成人なら多少既視感があるかもしれないが、本賞の対象読者の年代なら問題はない。彼らがちょい背伸びしたぐらいの目線で描かれる愉快痛快な探偵物語は、少年少女たちには新鮮で、文句なく楽しんでもらえるだろう。

佳作『神サミット2016』は、内気でおとなしくて友達運もない小5少年が、ふとした縁で四方の神社の神々に「神サミット」開催を伝える使者に選ばれ、使命を無事果たすまでの奮闘と成長の物語。少年を助ける阿形吽形の狛犬コンビはじめ、各神社の動物種の異なる守護獣がユニークで面白い。ただし、伊勢志摩サミットの年だからとはいえ、タイトルの2016はまったく無意味。

この2作に比べると、残念ながらほかの4作品は、発想や筋立てや文章力のいずれかに物足りなさが目立った。

『赤ちゃんは名探偵!』は、赤ちゃんの成人並みの世間知の由来にもう一工夫欲しかった。『真夜中の海を歩けばいいさ』は、いくらウイットとユーモアたっぷりでも、対象読者年齢を考えると自殺行のテーマは重すぎる。ましてや結果は失敗でも実行してしまうのはいただけない。『ブルーナイト・パーティー』は、パラレルワールドの設定に雰囲気があるが、「青」にこだわるところが今ひとつ説得力不足。『神の子』は、神の子とその世界も外の世界への逃走も、すべてがゲーム的説明を一歩も出ず、リアル感がなさ過ぎた。

選評 島岡理恵子(岩崎書店)

今年の傾向については、総評にある通りで、最終選考に残った6作品についての見解もおおよそ選考委員の方々は共通していました。そう言う意味では票が割れることもなく順当にまとまった気がします。

大賞に選ばれた「おでん街探偵・Wナンシー」は冒険小説というよりも下町の人情物語のような印象を持ちました。移り気な祖母と孫とで事件を解決する。ミステリー探偵もので主体的に動いているのがいいです。
細かな設定をきちんと描いていて、破綻せずに先に行くほど謎が解けて行く小説らしい構成でした。

佳作に選ばれた「神サミット2016」は、狛犬たちがリアルな犬になって主人公に同行します。神様が集まって話をするのは、出雲大社を連想します。神様自体の会議よりもその手紙を運ぶことがメインになっていた分、神様の会議の比重が低くなってしまったのは惜しい気がしました。それでも全体的にはまとまりもあり、同級生との微笑ましいやりとりも好感が持てました。

「ブルーナイト・パーティー」は別の世界の住人とさらわれた妹を取り返しに行くと言う物語。両方の世界を行き来しているとか、人間よりも前から生きていたとか大部分の話にはついていけない感じがしたのですが、最後の方で実は同級生で淡い思いを抱いていたというところには惹かれました。ただ、それまでとの物語の流れと異なるので、残念なところです。

ある程度ボリュームのある物語を生み出すには、それだけの構成力、筆力が必要になります。この賞の受賞者がいろいろな場面で活躍されているのはそれだけ力がある方でとても嬉しいことです。そこに続く方々を私たちはこれからも期待したいと思います。

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