第33回選考経過、選評

「福島正実記念SF童話賞」は今年で33回目を迎えた。応募原稿総数は、216篇だった。
例年と同じく、高齢の応募者が目立った。20代は数えるほどしかおらず、50代でも「若い」と思えるほど
だった。年齢を重ねた人生経験豊かな応募者ももちろん歓迎だが、今を生きる子どもたちに近い感覚を持つ若い方にも奮って挑戦していただきたい。

今年の特徴としては、SFと冠をつけているので当然といえば当然なのだが、いわゆるSFらしいSFが多かったことが挙げられる。
宇宙人、ロボット、透明な生物、タイムトラベル、タイムループなどである。SF豊作年といえよう。
SFで新しいパターンを創っていくのは難しいかもしれない。だからといって、デジャブ感のあるものも困る。ハッと驚く新味のある作品に出会いたい。

さて、第一次選考は、例年通りすべての作品を対象にして行われた。そして、次の16作品が通過した。

「星空タイムマシン」花里真希
「オトウト」すみのり
「MFラジオ ヒロシの時間」小林功治
「ママ・ロック」橋口さゆ希
「又造二十八号」南田幹太
「宇宙海賊と冠の王子」かめやひろ美
「ぼくたちのロケット」今井英輝
「消えた空き地」相川郁恵
「ぼくが勉強を始めた理由」西野真弓
「メロKと泣き虫透明人間」さと ようこ
「透明犬メイ」辻貴司
「四時間目のトリックスター」黒川裕子
「ひいひいおじいちゃんの埋蔵金?」小路すず
「ポペロゴドロンからの使者」村上雅郁
「ジルの冒険」森埜こみち
「なぞの転校生 デカイト」木内南緒

この16作品を対象に第二次選考を行った。前述のように「いかにもSF」な作品が多かったが、展開が安易だったり、ネタとして使いふるされたものだったり、大人目線だったりと、残念な要素がはっきりしていた。点数の上でも差がついた。

そして、以下の8作品が最終選考に残った。

「MFラジオ ヒロシの時間」小林功治
「ママ・ロック」橋口さゆ希
「又造二十八号」南田幹太
「ぼくが勉強を始めた理由」西野真弓
「透明犬メイ」辻貴司
「四時間目のトリックスター」黒川裕子
「ひいひいおじいちゃんの埋蔵金?」小路すず
「なぞの転校生 デカイト」木内南緒

「MFラジオ ヒロシの時間」 ラジオというメディアが今の子どもたちにとって身近なものかどうかが議論になったが、地域によっては「コミュニティラジオ」が生活のなかで大きな役割を果たしているらしい。
ヒロシという名の人や動物だけが聞けるラジオ番組の話で、のんびりしたトーン、いかにもそれらしいDJのせりふも好感が持てる。
しかし、いわゆる山場がなく、あっという間に問題も解決されてしまう。やや平凡で展開に迫力がない。温かみや安心感、終始優しい雰囲気にあふれていて、読後感もよかったので残念。

「ママ・ロック」 大人気アイテムのガチャポン。それをアイデアとして持ってきたのがいい。いわゆる「ある日、ふしぎなお店ができました……」パターンで、ネコが実は宇宙人だった、というオチにはややデジャブ感も持った。また、一読しただけでは「ママ・ロック」の使い方が理解できなかったという声もあり、課題点といえよう。
しかし、子どもをひきつけるアイテムを使う巧みさ、いきいきしたせりふ、主人公の悪戦苦闘ぶりのおもしろさなど、高い評価を受ける面もあった。

「又造二十八号」 いわゆるロボットものである。パターンとしては、よくある種類のものだが、話自体は楽しく読めた。好感度が高く、昭和テイストなほのぼのした雰囲気は悪くない。
がしかし、細かく読んでいくと、いろいろと不備もある。失職中のお父さんが実はエンジニアであるという設定が後から語られたり、名前しか出てこないクラスメートがいたり。せりふもだれのものなのかわかりづらい。
いい話で締めようとする意図も見えて、説明的になってしまった結末も残念だ。

「ぼくが勉強を始めた理由」 このお話もまさに「ある日、ふしぎなお店が…」パターン。未来からよこしまな意図を持った人が来て…というのも、応募作によくある。
一人称で語れないシーンのために一部だけ「神視点」になるのは、やはり違和感があった。徐々に自分が自分でなくなっていく、居場所がひとつずつ失われていくという描写はよく書けている。
しかし、この話は少しグレードが高く、中学年向きではない。福島賞が求めるのは小学校3、4年生向きの物語なので、そこは意識してもらいたい。

「透明犬メイ」 読者対象である小学校中学年にぴったり。キャラクターがよく立っており、全体的におもしろい。文章のテンポもいい。透明犬の透明さを表現する描写もいい。
一貫して子ども目線であり、主人公の気持ちがよくわかる書き方もいい。ただ、ネタ的に小さいのは気になる。内容が薄く、やや物足りないと感じる読者もいるのではないかという危惧はあるが、枚数的にはこれが限度かもしれない。

「四時間目のトリックスター」 いわゆるタイムループもので、映画にできそうなストーリーだ。小見出しもいちいちゾクゾク感があって、工夫されている。結末もよい。
一方で、この理屈が3、4年生の読者にわかるだろうかという疑問もわく。大人でも理解するのに注意深く読まねばならない。「学校から抜けられない話」は過去の応募作品にもあったが、実際、辻褄をわかりやすく合わせるのがとても難しい。

「ひいひいおじいちゃんの埋蔵金?」 タイムトラベルもの。戦争についても考えさせる良質な作品だが、せっかくの暗号が非常に単純。
主人公たちも埋蔵金を掘りにいくわけではなく、「その日」を待つだけだったのが物足りない。戦時中からタイムトラベルしてきたおじいさんが、のちに江戸時代に移動して、その姿が社会の教科書に載っているというアイデアはおもしろい。
だが、空襲時にタイムマシンがあるなら家族を助けなかったのはなぜか、など疑問点もある。

「なぞの転校生 デカイト」 有名作品を髣髴とさせるタイトルは、いただけない。タイトルも作品の一部であり、作者のセンスを判断されるところなので、よく考えてもらいたい。未来から人がくるというのもパターンとしてはよくあるものだが、物語は最後までおもしろく読んでいけた。
気になったのは、くだらないだじゃれが多かったこと。おもしろさは重要だが、児童書なのである程度の品は求められる。その点も工夫してほしい。

以上、最終選考会で各作品についての討議を重ねた。
最終的に「ママ・ロック」か「透明犬メイ」か、どちらを大賞にするかで議論になったが、対象学年向きであること、シンプルで楽しくわかりやすく読んでいけることが評価されて、大賞が「透明犬メイ」、佳作が「ママ・ロック」に決まった。

大賞 「透明犬メイ」 辻貴司
佳作 「ママ・ロック」 橋口さゆ希

2016年3月
福島正実記念SF童話賞選考委員会



選考委員の選評


選評 石崎洋司

今年は例年に比べて接戦だった。ただ「高いレベルでの接戦」というよりも、だれかがA評価をつけてもだれかがC評価にしているという、いわばどの作品にも「決定打」がないという意味の接戦である。実際、大賞作品と佳作作品は同点で、私の場合、大賞作品にはC評価、佳作作品にはA評価をつけている。
ほかにも評価の割れた作品が多かった。私が高評価を与えた作品にしぼると、

「MFラジオ ヒロシの時間」
動物のおたよりが地域のFMラジオで放送されるという、この賞には珍しくほのぼのとしたタイプの作品。このほのぼのさは、他の選考委員にはマイナスだったようだが、もし、もっともっと徹底してほのぼのした作品なら、選考の席上で、私は作者に代わってこの作品の良さを力説していただろう。

「又造二十八号」
安いアンドロイドが年寄りのロボットだったというネタは特別新しくもないが、話としては十分面白かったので意外な低評価には正直驚いた。もっと「又造」のキャラを強くして、主人公を含めた家族とのやりとりを大げさにすれば、魅力が増しただろう。

「なぞの転校生 デカイト」
これも私はA評価だったが全体の評価は低かった。が、ちょっとした小ネタに、小学校中学年の子どもにとって非常にリアリティのあるものを使える点など、「ママロック」の作者同様、デビューにいちばん近い方だと思う。

大賞と佳作を最終的に分けたのは、文章面を含めた「完成度」で、その結果に私も依存はない。が、個人的な考えでは、新人発掘が目的の児童文学・童話の賞では、文章やストーリーのまとめ方の巧みさよりも、「フック」の強さ=子ども読者を共感させるネタの強さが、重視されるべきだと思う。というか、応募者にはそこをセールスポイントにして欲しいのだ。次回から選考が隔年になる。
「完成度は低く、文章も荒削りだが、この面白さは捨てがたく、将来を期待させるものがある」のような選評を得られるような作品を、2年かけて考え、応募していただきたいと思う。

選評 後藤みわこ

この応募作は落とそうか、残そうか。
一次、二次選考の段階から、「こんなに迷う年は、これまであまりなかったなぁと思っていました。
SFらしいアイデアの作品が増えてきたことがうれしい反面、「SFっていうと、これしかないと思われているのかなぁ」とパターン化にがっかりもしました。「似た話、さっきも読まなかった?」と候補作の山をひっくり返して確かめることもありました。
当然、最終候補作も、どれも「けっこうおもしろくて」「そこそこうまい」のです。いいかえれば「すごくいいね!」といえる飛びぬけた応募作がなかったわけで、最後の最後まで話し合う選考会になりました。

魅力があるのに推しきれなかった作品について、少しずつ書いてみますね。

まず、「MFラジオ・ヒロシの時間」。アイデアも独特で雰囲気もいいのに、山場が山場らしくなくて、もったいないです。
「又造二十八号」は泣けるお話でした。でも、必要な説明や張ってほしい伏線がないなど、技術的不備も目につきました。
同じく「ぼくが勉強を始めた理由」もおもしろいのですが、技術的なこと、特に「視点」を扱いきれていないのが気になります。
「四時間目のトリックスター」は雰囲気があってひりひりと怖い……ただ、小学校中学年の子に理解できるだろうか、と案じました。
「ひいひいおじいちゃんの埋蔵金?」は好感度は高いのに、主人公が動かない……自力で埋蔵金を探さないのが惜しいです。
「なぞの転校生 デカイト」はキャラクターの好感度も高いのですが、『未来人との友情』は一種のパターンで既視感があります。

わたしは、みなさんの「次の作品」が楽しみです。ここまで書ける方なら、次回は受賞されるかもしれません。締め切りは来年9月です。新鮮なアイデアを見つけ、練りに練って挑戦してください。

選評 廣田衣世

一次選考から読ませて頂き、例年に比べて、今年はSF色の濃い作品が多かったように思いました。
ロボット、UFO、宇宙人、タイムスリップ、パラレルワールド等々。
中でも、地球征服をもくろんでやって来た異星人が、地球人の素晴らしさを知って感動し、あっさり征服するのをやめて自分の星に帰って行く……といったストーリーが何編かあり、どれも同じような展開で驚きました。宇宙人モノは、どうしてもパターン化してしまいがちなのでしょうか。新たな切り口を期待したいと思います。

大賞の「透明犬メイ」は、小学校中学年の読者年齢にぴったりのやさしい文章で、最初から最後まで安心して読み進められました。主人公の登校時、透明な犬がハァハァ嬉しそうについてくるという斬新な発想がユニーク。見えないはずの犬の姿を巧みに表現し、読者の想像力を大いにかきたててくれます。
学校でのドタバタ劇も楽しく、ラストのおさめ方も、かわいらしくて温か味あふれています。「透明な犬と出会う」というだけの、内容的にはやや物足りない部分もありますが、終始子ども目線でほのぼのと描かれており、とても好印象な作品でした。

佳作の「ママロック」は、タイトルもアイディアも面白く、軽快なテンポの文章に引きつけられます。ガチャポンという子どもに人気の小道具を上手く使い、早くロックしたいのに、セットするカギがそろわず、なかなかロックできない展開にワクワク感をそそられます。最後はいわゆる宇宙人オチなのですが、地球人の子どもの日常を観察するためにガチャポンを置いた、という理由付けが弱く、どこか中途半端な感じが残りました。一読しただけでは内容が分かりにくい所もいくつかあり、三・四年生が容易に理解できる書き方が必要なのではと思いました。

惜しくも入賞には至りませんでしたが、「MFラジオ ヒロシの時間」は、昭和テイストたっぷりで、随所にクスリと笑えるツボもおさえてあり、ほっこりとした読後感を味わえる楽しいお話でした。
「四時間目のトリックスター」は、ホラータッチの不気味な世界を表した作品で、動作やセリフのひとつひとつからもゾワゾワ感が伝わり、とても読み応えがありました。ただ、少々ゲーム的な印象があったのと、文章が高学年向きで、子どもの読み物としては難しかったのが残念でした。

選評 南山 宏

例年、最終選考まで残るのはおおむね5作か6作だが、今回はそれなりに高評点を競う作品が8点も駒を並べた。これはひょっとすると議論が沸騰して選考が難航するかもと、うれしい悲鳴めいた危惧も感じたが、実際には意外に順調に選考が進んで、最終的に甲乙つけがたい2作品が残り、それぞれが大賞作と佳作に決まった。

大賞作『透明犬メイ』は、「やっぱり、ついてきてる/ぼくは何度も何度も後ろをふり返った/そこには、なにもいない」で始まる冒頭のツカミがいい。描写が巧みで的確なので、読む者を一気に作品世界の中に引きずり込んでくれる。
ついてくる気配や息づかいや足音から大型の犬とわかり、最初は化け物かと恐怖におののくが、田んぼの泥にまみれて部分的に見えたりボール遊びに興じたりするうちに、しだいに絆が強まって離れがたい仲になっていくあたり、犬好きならもちろんだが、そうでなくても心に素直に迫ってくる。
書き方しだいではこの三分の一の長さでもすみそうなシンプルな寓話風童話だが、ストーリーテリングもキャラクター描写も神経がよく行きとどき、それを支える文章力も文体もすでにプロ並みのレベルだ。なぜ「ぼく」が「ほんとうの飼い主」として「今朝」出会ったのか、最後に謎のすべてが判明するエンディングも堂に入っていて、文句なく大賞受賞の資格がある。

佳作『ママ・ロック』は、子供に大人気のカプセルトイ自販機(ガチャポンとかガチャガチャとかいうあれ)
から、子供の日頃の願望や空想を叶えてくれる不思議なオモチャ(機械?)が飛び出してくる、という奇抜なアイデアがおもしろい。
主人公の「ぼく」が、口うるさいママにロックをかけて優しいママに変えてしまう「ママ・ロック」にどうしても必要な超レアなカギを手に入れようと、ガチャポン代稼ぎに必死になって宿題や片づけやお手伝いをすることで、結果的にヨイコになってしまう皮肉な展開が、終始子供目線の一人称でテンポよく描かれる。
ネコ型宇宙人が人間観察の目的でこっそりガチャポンを設置していた、というやや既視感のある宇宙人オチがもう少し新味のある終わり方に工夫されていたら、もっと高く評価できただろう。

選評 島岡理恵子(岩崎書店)

今回、最終選考に残った作品とそうでなかった作品との差が大きく、逆に残った作品についてはいずれかの作品が突出しているという印象ではなかった。似たようなテーマが重なってしまうと、また同じものという印象になってしまうので、そのあたりは毎年の課題になっている。
それぞれに良いところと残念なところがあって、そういう意味では最終的には2作品に絞られたが、それ以外の作品も印象に残るものはあった。

「MFラジオの時間」については、自分が子どものころには聞いたりしたが、今でもFM放送などを聞くのか不思議だったが、選考委員の先生から、地域のコミュニティ放送は子どもにも身近なものであるので、地域によってはとても親しみのあるものだと知ることができた。同じ名前の人しか聞けない不思議な放送。地域との密接感などいいものも持っているが細かいところに突っ込み要素があったのが残念。
「四時間目のトリックスター」は同じ時間を繰り返すというループもので、ミステリアスな雰囲気をかもし出し印象に残った。ただ、最初の流れがわかりにくく、何度か読み返さなくてはならないのが惜しいし、少しグレードが高い気がした。

佳作となった「ママロック」は、ある程度予想をして読み進めていったがいい意味で予想が裏切られて、その点が新鮮だった。不思議な人イコール宇宙人という単純さがもったいないところ。
大賞となった「透明犬メイ」は犬を飼いたかった主人公がある朝透明な犬と出会い、学校までついてきて、ひと騒動が起きる。実はこれから出会う子犬の未来系だった。枚数的なところで、ここまでなのかもしれないが、もう少し山場というか盛り上がりがほしい。透明犬の謎がもっとあってもよかったのではないか。シンプルさがこの学年ならではかもしれないがこれからの成長を期待したい。ある意味児童文学らしい作品だったと思う。


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