第29回選考経過

第29回を迎える福島正実記念SF童話賞に、今年は247篇の応募があった。この数字は歴代2位(1位は昨年の263篇)という多さである。
今年度の特徴としては、同じようなモチーフやテーマが多かったことが挙げられる。サッカー、星、生命についてなどがよく見受けられた。女子サッカー「なでしこ」の活躍や探査機「はやぶさ」の地球帰還、昨年の東日本大震災の影響を大きく受けていると考えられる。
内容についていえば、わるくはないが、際立つもののない作品も多かった。たくさんのご応募をいただけるのはとてもありがたいが、やはり数ではなく、質の高いものが望ましい。想定外の驚きをもたらすような新しい書き手が現れることを願ってやまない。

第一次選考を通過した作品は、以下の16篇だった。

 『親切ポイント』 小田良一
 『アルファタケハの小びん』 七妻 実
 『不思議商店街の時計おじさん』 城上黄名
 『流れ星は友だち』 遠山裕子
 『ホウキ星からきたセイ』 葉山わたる
 『過去と未来の守りびとたち』 こうまるみずほ
 『満・満~今、ヒーローになる時!~』 ひらやままこと
 『ゆうれいトカゲ』 吉田誠一
 『ざしきわらしノート』 太月よう
 『人相占いマシン』 たかぎなまこ
 『なにかが起こりそうな夏休み』 七海冨久子
 『ルビーの指輪をさがしていたら』 はながた れい
 『ちょっとだけエスパーに』 いわきたろう
 『わたしのスケルトン』 すみ のり
 『跳べ! 正義の疾風少女ライチ』 てり
 『ぼくらのエネルギー革命』もりいずみ

例年と同じく、文章力、発想(アイデア)、ストーリー展開が必要な要素として、満遍なく満たされていないといけない。二次選考までたどり着けなかった作品はどれも、アイデアはよくても展開がもたもたしていたり、出だしはよくても終わりがあっけなかったりと、残念なものが多かった。
二次選考を突破して、最終選考ラインに並んだのは、以下の5作品である。

 『アルファタケハの小びん』 七妻 実
 『不思議商店街の時計おじさん』 城上黄名
 『ホウキ星からきたセイ』 葉山わたる
 『ゆうれいトカゲ』 吉田誠一
 『わたしのスケルトン』 すみ のり

『アルファタケハの小びん』 七妻 実 グレードが高めの印象だった。何年生(何歳)なのかがわからない。児童書なので、わりと早いうちに読者に主人公のプロフィールがわかったほうがよい。物語自体は、おもしろく、タイトルもいい。ただ、設定がやや強引であることと、全体的に昭和30年代のような匂いが漂うのは意図したものなのだろうか。また、明らかに恋愛の描写もあり、福島賞としてどうなのかを改めて考えさせられるものがあった。肝心の「星を売る男」のキャラクターが最初から最後まで共感を呼ぶタイプでないことも気になった。甕のなかに星空があるところなど、うまさを感じさせられるところもあったので、その長所を活かして、また別のモチーフをうまく料理してほしい。

『不思議商店街の時計おじさん』 城上黄名 まずタイトルの「不思議商店街」だが、どこが「不思議」なのかがわからない。時計屋以外の店で「不思議」を感じさせる場面はない。「商店街の不思議な時計屋」といったほうが正しいのでは。タイトルは重要なので慎重につけてほしい。こうした些細なミスが多かった。全体の印象でいえば、いろいろな時計がずらっと並んだ場面や、うさぎの目覚まし時計が大活躍するなど、おもしろくなるところはおもしろい。絵にもなるだろう。だからこそきっちりと世界観を構築してほしい。ファンタジーであっても、リアリティがないといけない。時計が絡んだ「時間」の概念に関する物語と少年少女とのやりとりがうまく書けておらず、どっちつかずな印象があり、作品全体としてのまとまりに欠けていた。でも伸びていく力を感じさせるものはある。次作はぜひ細かいところから丁寧に作り上げてほしい。

『ホウキ星からきたセイ』 葉山わたる SFとしてもファンタジーとしてもやや乱暴な設定だった。隕石とコメットを混同しているところがある。また、「魔法でなんでもできてしまう」というのがご都合主義な感じを与える。ただ、いきなり主人公と星からやってきた少女が双子になったりと、おもしろさはある。それに勢いもあるので、読ませるし、いいお話という印象は残す。最大の難点は、「生命の進化」というテーマが去年の大賞作品と全く同じだということ。やはり毎年の大賞作品にはバラエティを求めたい。公募の新人賞だから新しさに驚かせてもらいたいという気持ちがあるので、読んだことのない物語をぜひお願いしたい。

『ゆうれいトカゲ』 吉田誠一 大人が少年時代を回想する、という内容だが、これもグレードを上げている印象がある。トカゲが影を切ったり、くっつけたりする仕組みについても、嘘でもいいから理屈がほしかった。この作品も細かいところに神経が行き届いていない場面が多くあって、残念だった。「壁抜け」のシーンはとてもおもしろい。読者が絶対できないことを、主人公が体験する。その描写を追うことで読者が自分がしているような気分になるのは物語ならではの醍醐味なのだ。そこは楽しめた。「人を死なせてはいけない」今年だからこそ描きたかったテーマなのだろうか。全体的にトーンの暗いのが気になったので、新しい作品はぜひ明るく描いてほしい。

『わたしのスケルトン』 すみ のり ばかばかしいながらも、おもしろさのある作品だった。女の子の心情もよく書けている。しかし、この作品も主人公のプロフィール(名前、年齢)などがなかなか出てこない。全体的に技術点は高いが、芸術点は低そうだ。出てくるネタ、展開は古く、パターンもなじみのものである。文章が上手か、下手かも選考委員のなかで意見がわかれた。盛りこまれている材料がたくさんあり、一読して理解するのがなかなか難しい。新鮮な要素は、従来、「幽霊」として出てくるものが骸骨になったということだけだが、これもそのまま「幽霊」だったら、どうだろうかということになった。数年前の「きもだめし☆攻略作戦」とモチーフが似ているのも気になる点だった。一読して「おもしろい」と思わせる力はあるので、新鮮な味付けをしてほしい。

受賞作品をどれにするかでおおいに悩んだ。例年の流れからすると、どれかが必ず大賞をとり、大賞受賞作品は岩崎書店のラインナップに乗り、刊行の運びとなる。しかし、今年の最終候補のなかで、今までの受賞作品と並び、また、多少の改稿を加えたとしても自信を持って世の中に出せる作品はあるだろうか…という点で議論となった。受賞作品は来年からの基準となることも踏まえ、厳しく審査をしたい。満場一致でひとつの作品を出せないという事実を重視して、今年は大賞受賞作なし、という結果となった。そして、今後の期待を込めて、『不思議商店街の時計おじさん』と『わたしのスケルトン』が佳作に選ばれた。

受賞作品は次のとおりである。

大賞 該当作なし
佳作『不思議商店街の時計おじさん』 城上黄名
  『わたしのスケルトン』 すみ のり

2012年3月
福島正実記念SF童話賞選考委員会


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