第28回選考経過

第28回を迎える福島正実記念SF童話賞に、今年は263篇の応募があった。この数字は昨年に引き続き、過去最高を更新するものである。全体的な傾向としては、応募者の平均年齢が高くなったように思われる。反面、20代が少ないのが気になるところである。数が多いからといって、レベルが上がったということも一概に言えず、また例年と同じく、グレード、内容が明らかに福島賞と違うものがあった。福島賞自体をよく理解して、応募していただくことを願う。

第一次選考を通過した作品は、以下の18篇だった。

 「ケイチャンとバキューム・ワールド」 渡邊禎子
 「バルーの風船レター」 西村洋子
 「エイキュウ・キカン」 藍沢羽衣
 「おふくろの味」 はちべえ
 「クリームシチューにとびこまないで」 在上水悠
 「ピッチはタイムトラベラー」 里 洋子
 「実れ! 希望のタネ」 奈月俐都
 「じいちゃんの研究所」 佐藤卓郎
 「人魚研究所」 星 大悟
 「サンタの不思議なおくりもの」 もりいずみ
 「子どもワールド・パニック」 安藤邦緒
 「昆虫Gがやってきた!」 こうまる みずほ
 「対決! おもちゃ大決戦」 大野順子
 「ヒュルルイー ホイッスルが鳴って」 吉田美香
 「ぼくらと虫と神様と」 嘉瀬陽介
 「ひと夏の友だち」 庭野 雫
 「じいちゃん、どこ行くんや」 文月奈津美
 「進化する夢の中で」桜井まどか

二次選考過程では文章力、発想(アイデア)、ストーリー展開など、必要な要素が一応満遍なく満たされていないといけない。一生懸命書いている姿勢を、なんとか選考委員に読み取らせようとするような努力はあまり役に立たない。

二次選考を突破して、最終選考ラインに並んだのは、以下の5作品である。全員女性の作品で、二次選考の採点に、あまり高低がなかった。

 「実れ! 希望のタネ」 奈月俐都
 「サンタの不思議なおくりもの」 もりいずみ
 「昆虫Gがやってきた!」 こうまる みずほ
 「じいちゃん、どこ行くんや」 文月奈津美
 「進化する夢の中で」 桜井まどか

「実れ! 希望のタネ」 奈月俐都 子どもはかわいく、話も楽しいことは楽しいが、ラストが盛り上がっていないのが一番残念な点だろう。昨年の受賞作に影響を受けて、女子のSFにしたのだろうか。うさぎは今年の干支で、絵にしてもかわいいだろうし、キャラクターとしていけるだろう。話もアイドル志望のライバルがいたりして、わかりやすい。でも、それ以上ではない。隕石が落ちてくるにも関わらず、パニックにもならず、ふつうに授業をしている不思議さ。ともかく全体にドキドキ感がないのは、詰めの甘さだろう。文章はグレードにぴったりで、福島賞らしい作品だった。

「サンタの不思議なおくりもの」 もりいずみ 文章は、かなり書きなれている。ストーリーもきれいにまとまっているようだが、気になるところが見えかくれする。まず母子家庭の状況は展開不足のままで終わっている。また特定の固有名詞(商品名、メーカー名)を出しすぎる。必然性もないので慎重に扱ってほしい。全体的にせっかくの筆力を十分に生かしきれていないのが残念だった。

「昆虫Gがやってきた!」 こうまる みずほ ゴキブリを「G」とする表現がおもしろい。そして中盤ぐらいまでおもしろく読める。ところが冒頭を上手に書けるとそれ以上のラストを求められる。この作品では、ラストが物足らなかった。Gがなにもしないで自分の世界に帰ってしまう。消える前に「くらげ」に似ているという本当の姿を見せたりする工夫が必要だ。ゴキブリを手のひらに乗せるような、絶対にいやなことを山場にして盛り上げなければいけない。文章はAクラス。

「じいちゃん、どこ行くんや」 文月奈津美 関西弁はいいが、文章がやや荒っぽく、類型的で、方言のおもしろさや新鮮さが足りない。変換ミスも多すぎてマイナスになっている。送る前に出力したものを確認するのは大前提だろう。物語ではポイント、ポイントのアイデアはいいが、まとめきれていない。思いついたアイデアを本人自身が楽しんでいる感じがないので、こちらにも伝わってくるものがない。場面、場面だけだと一瞬おもしろいが、それを物語にうまく織り込めないと作品全体のおもしろさが盛り上がってこない。ラストの「殺される」という表現はいかがだろうか。全体的に言葉そのものに神経が行き届いていない。もっと丁寧に書かないと作者の実力が出にくいだろう。

「進化する夢の中で」 桜井まどか いちばんおもしろいと意見が審査員内で一致した。進化論を使って、わかりやすくしている。アイデア、志の高さを評価したい。大人にもズキッとくるところがさりげなく書かれている。細かいところにも目が届き、実がぎっしり詰まっている。個々のキャラクターにそれなりの役割を持たせ、読み応えがあり、場面展開がおもしろい。ほかの作品と比べても異色である。夢から夢へ続くストーリーは、飽きることが多いが、飽きさせずに読まされた。今までの福島賞にない、重さ、深みがある。作者の気持ちが読者の内面に入ってくる。気持ちの熱さがうまく表現されている。文章はおとなしいが、奥底に力強いメッセージがある。本にするときのタイトルには、再考の余地あるだろう。

こうして議論を踏まえたあとに、今年の受賞作品を決定した。審査委員が満場一致で推した「進化する夢の中で」が大賞に、「昆虫Gがやってきた!」が佳作に選ばれた。なお、大賞作品の内容、グレードにあわせて、今年度から福島賞受賞作品の判型をB五変型判からA五判にすることもあわせて決定した。判型、版面作りを変えていくことで、福島賞そのものにも新風を吹き込みたい。

受賞作品は次のとおりである。

大賞 「進化する夢の中で」 桜井まどか
佳作 「昆虫Gがやってきた!」 こうまる みずほ

2011年3月 福島正実記念SF童話賞選考委員会


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