第5回選考経過

本賞の応募締め切り1週間前になると、応募原稿の山は目に見えて高くなっていく。「今年もジュニア冒険小説大賞の季節がきたなと、選考委員も期待をこめて原稿の数々をながめるものだが、その賞も今年で5回目をむかえた。

今回の応募作品総数は58編で、昨年の第4回を下回り、残念ながら二年連続の減少となった。児童書も含め出版業界全体で文学賞の公募が増えていることや、各賞の締め切り時期との兼ね合いもあると考えられるが、やや寂しさが感じられた。さらに多くの応募作品を集められる賞となるべく、力のある書き手を見いだすよう尽力することを念頭に置きながら、選考に臨んだ。

第一次選考は、例年どおり全ての作品を対象に行った。応募総数に比例したのだろうか、今回は例年より少ない9作品の通過となった。

「瑠璃色の月の下で」    トオル金太郎
「山の火 水の月」       巣山ひろみ
「風の剣 アテルギの物語」   宮沢 一
「宇宙からきた留学生」      山本大介
「サティン・ローブ ユーラの冒険」                  浅見理恵
「人魚姫の騎士」         牧野 礼
「ぼくらの妖怪封じ」       香西美保
「月鏡」             森生千晶
「天人米蘭と燐の物語」      八坂まゆ

この9作品を対象に第二次選考を行い、次の六作品が優秀作として最終選考に残った。

「瑠璃色の月の下で」   トオル金太郎
「サティン・ローブ ユーラの冒険」                 浅見理恵
「人魚姫の騎士」        牧野 礼
「ぼくらの妖怪封じ」      香西美保
「月鏡」            森生千晶
「天人米蘭と燐の物語」     八坂まゆ

最終選考に臨んで選考委員たちが一致して述べたのは、「今年は物語が小ぶりの作品が多く、これだという判断をくだしにくい」という感想である。各回ごとに新しい切り口での冒険小説を選出してきたつもりではあるが、過去4回の大賞作品の傾向を見て、応募者の指向がやや固定化してきた可能性もあるだろう。そのためか、選考委員それぞれの各作品への評価も、例年に比べると少々辛口であった。

以下が各作品の講評である。

「瑠璃色の月の下で」

これはSFとファンタジーの要素が相半ばする作品という印象であった。月世界の化け物との戦いの場面はスピード感があっておもしろく、楽しんで読ませる。ただし人物名などのカタカナ表記と漢字の言葉の使い方に規則性や統一性が感じられず、物語の流れも勢いにまかせるあまり少々読者からはなれてしまった。アニメにしたらおもしろいのかもしれない、読者年齢を考慮していない、との声もあった。

「サティン・ローブ ユーラの冒険」

最終選考に残った作品の中では、小ぶりながら物語がよくまとまり、文章がしっかり書けているファンタジー作品であった。登場人物のひとりひとりが話の中にきちんと組みこまれて、動きに無駄がなく、キャラクターだてもおもしろい。名前にも統一性がある。ただ一度出てきた人物を、読者が正確に覚えているものとして書き急いでいる点は残念であった。また、若干エピソードのくり返しが気になるが、概ね好評であった。

「人魚姫の騎士」

ストーリーはおもしろかったが、文章にちぐはぐなところがあり、まだ自分の文体が確立できていない、背のびした印象も残る。物語の視点が都合によって移りがちな点も気になった。登場人物が多く、世界を広げすぎて手に負えなくなった感じである。オズの魔法使いを連想させたが、もう少し洗練が必要であろう。それでも今後に可能性を感じさせた作品であった。

「ぼくらの妖怪封じ」  作品のプロットがしっかりしており、文章も過不足なくまとまっている。?時間?の問題などに若干のキズは見られるが、設定に無理がなく、登場人物も出たきりということがない。悪人を登場させずに物語を構成したことも、ありきたりでない味わいをつくりだしていた。真相があばかれるときにもっと盛り上げられるような気もしたが、かといって読後感は悪くなかった。

「月鏡」

物語自体は非常におもしろい作品である。中国神話についての知識も深く豊富で、作品の質が高められ素晴らしかった。ただ、残念ながら本賞の掲げるジュニア冒険小説ではなく、大人向けの仕上がりであった。大人の読者でも読みこなすのは中々だろう、と選考委員をうならせるほど、巧みな文章と構成力である。今後の執筆活動に期待したい。

「天人米蘭と燐の物語」

世界観がおもしろく、作者の知識の深さも感じられる作品。だが原稿枚数のわりに動きが少なく、説明的な部分が多いので、エンターテインメントとしては物足りない印象をもつ。設定をうまくいかし、環境問題をより深め、もっとやさしく書くと成功したかもしれない。小学生や中学生にわかりやすく書くことを考慮してもらいたかった。

このように最終選考会で各作品が討議された結果、「ぼくらの妖怪封じ」が大賞を、「サティン・ローブ ユーラの冒険」が佳作を受賞する運びとなった。「ぼくらの妖怪封じ」は、作品の構成力、完成度で評価が高く、満場一致で大賞受賞が決まった。佳作の作品は、大賞には一歩及ばずというところだが、構成力のあるおもしろい作品だと評価された。

近年の傾向として、パソコンの文字変換機能のためか、難解な漢字を多用し、物語世界を奥深くみせようとする作品が多く見られる。多少の背のびはわからないでもないが、書き手の操れる言葉で、読者の子どもたちが夢中になる物語を生み出すことが一番大切だということを忘れずにいてもらいたい。

本賞は、創設以来、小学生から年配の方まで幅広い年齢の方々に応募していただいている。作品のおもしろさは年齢によるものではない。次回も、児童文学界を盛り上げるような心躍る冒険物語の誕生を期待したい。

2006年12月
ジュニア冒険小説大賞選考委員会

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